暑いのは夏だからじゃない
「…なんでファーストはエイブリーと付き合ってるのよ」
「えっ、エイブリー欲しいの?あげないよ?」
「いらないわよ、あんなちゃらんぽらん」
「ちゃらんぽらん…!?」
エイブリーじゃないのに私がグサッと来た。うぅっ…メアリーは美人なのに毒舌だよ…。
そりゃあ、彼女の好きなリドルに比べたら頭はアホかもしれないけど…呪文は得意だし、性格は穏やかで優しい…っていうかわんこみたいなとこもあるし。良い人じゃないか。可愛くて。
「だってファーストはすごい美人ってわけでもないけれど、人をちゃんと見る人にとってはすごい美人のはずよ?リドルとか落とせたでしょうに…」
「良いの。私はエイブリーが好きなんだから」
「おー、惚気てやんの」
「何の話ー?」
ギュウッっと私の背中を抱きしめてくるのは声的にエイブリーだ。メアリーは、ヤレヤレとでも言いたげに頭を横に振った。
「あんたが愛されてるって話よ」
「ホント?ファースト〜」
「えぇ、まぁ」
「わはっ、嬉しい」
「ぐぇっ」
背中に回されている腕に力が入り、胃の中のものが出そうになった。…そうだよ、こいつも男なんだから力強いに決まってるじゃん。
「エイブリー、ファーストが息苦しそうにしてるわよ」
「え、あっ…ファーストごめん」
「いや、大丈夫だけど」
私から離れたエイブリーはしょぼんとしており、耳の垂れた大型犬を思わせた。
「エイブリー、彼女とちょっといちゃついたらすぐこっち来るって言ったよね?」
「いだぁぁああっ!?ちょ、トム君耳引っ張んないでよ!!」
「やぁ、missファミリー。いまから【例の会合】があるから君の彼氏借りるね」
「ど、どうぞ…」
リドルの黒い笑みに何故か威圧感を感じたら差し出すしかない。ごめん、エイブリー…。
「トム君、会合に行く前にちょっと待って!!」
「誰がトムだ、コラ。…1分だけ待ってあげる」
「ありがとう!ファースト!!」
「……大丈夫なの?今来ちゃって」
「大丈夫、トム君に1分貰ったから」
……【例の会合】は彼らが卒業した時にマグルの排除がどーたらこーたらの為のもので大切なもののはずだからそんな事案を遅らせて良いものじゃない筈だけど…。
「で、なに?」
「うん、あのね」
私の方に手を置いて額にキスをしてきた。
「……」
「えへへ、いつもは口だけどオリオンがヴァブルガさんにしてるのみたらやってみたくなって。じゃあねー」
手を振ってリドルのもとに走っていくエイブリーを見届けた後、私は壁にもたれて床に座ってしまった。
「ちょっと…大丈夫なの?ファースト」
「だ、大丈夫な訳がない…」
夏の某日、暑さで頭が少しやられたのかもしれない。
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