shortstory | ナノ


  He likes laughing you.


笑ってほしくなかった。

俺以外にその笑顔を向けると狂おしい気持ちになってしまった。だからファーストの為にも、俺の為にも俺以外に向けて笑って欲しくなくて。

「俺、君の笑った顔嫌いだよ」

「…そうなの?」

特に傷ついたわけでもなく、淡々と聞き流すファーストに少し不安になった。もしかしたら意味が伝わらなくてまたほかの男にも微笑むんじゃないかって。だから少し釘を打っておいた。

「君は笑わない方が似合うよ…だから笑わないでよ」

その日から確かにファーストは笑わなくなった。そしてそれは俺の前でも、だ。

…確かにあの言い方は俺の前でも笑ってはいけないみたいに言ったか。いや、それよりもファーストの笑が嫌いだ、と言った方がいけなかったかもしれないけど。

だから何度も俺の前では笑うように促してみたけど、彼女は結局笑わなかった。もしかしたら、笑いを忘れてしまったのかとも思った。



「…参ったな」

別に死ぬわけでもないというのに、少なくともアズカバンに送られはするだろうが…とにかく、急に昔のことばかり思い出してしまった。走馬灯かっての…。

…そういえば、今ファーストは何をしているんだろう。笑わなくなった日から表情がクールになっていたけど今でもそのままなんだろうか。

「大臣!?そ、その吸魂鬼はどうするんですか!!」

俺を見張っていたマグゴナガルが立ち上がって扉を開けた途端入ってきたのは現魔法省大臣のコーネリウス・ファッジと身の毛がよだつような冷気をまとった吸魂鬼。…まさか、アズカバンへ俺を連れて行かずにこのままキスを施す気なのか?

「ミネルバ、下がって居なさい。たったいま、私は魔法省大臣の権限を使ってバーティ・クラウチ・JRへの吸魂鬼の接分を許可した」

「なんですって!?」

マグゴナガルとファッジの口論が聞こえたが、それももはや遠くに感じた。

ゾクッっとする冷気が俺の体を纏い、頭がぼぅっ…としたがそれも一瞬のうちでアズカバンに居た時と同じ幸福があり得ない感覚に陥った。

思い出してしまうのは、本当に不幸なことばかり。

レギュラスが死んだと告げられた時、母が俺の代わりにアズカバンで死んだと聞いた時、あのお方がポッターに敗れたとき…そして、彼女――ファーストが俺の近くにいなくなったとき。

「クラウチ!」

バターンと大きな音を立て、部屋に一人の女性が入ってきた。その勢いでマグゴナガルとファッジの口論も止まり、吸魂鬼も一旦俺から離れて行った。

「…ファースト」

「良かった、まだ間に合って…」

大粒の涙を流して俺のそばに駆け寄るファースト。…違う、俺が見たいのは。

「笑って、ファースト」

きょとん、とした顔を一瞬して。そして笑った。

満面の笑みではないけれど、涙がまだまだ溢れていたけれど、それでも俺が大好きで見ていたい微笑みだった。

そして、顔の周りに最後の冷気が俺を呼びよせた。

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