君の笑顔が蘇る
「ねえ、君なにやっているんだい?」
「…え?」
不意に声をかけられて顔をあげる。そこにはグリフィンドールのなかで、良い意味でも悪い意味でも有名人のジェームズ・ポッターが、友達のシリウス・ブラックのローブを掴んでいた私を覗きこんでいた。シリウスはめんどくさそうなのを隠そうともせずにいる。
思わぬ人物から声をかけられたことにびっくりしすぎた私は、思わず読んでいた教科書を落としそうになってしまった。
「じゅ、呪文学の…課題を…」
「へえ?困難してるみたいだけど、手伝ってあげようか?」
「だ、だだだ大丈夫…!!」
ぶんぶんと首を振って断ったのにも関わらず、ジェームズは私の書いたレポートを勝手に読んでしまう。
かなり出来が悪いと自負している私のレポートを学年一番の天才と、ついでに横から覗きこんでいる男子の次席に読まれ、恥ずかしさで固まりそうだ。
「それ、返して!!」
「……ふんふん、成る程ね」
私の悲鳴にも近い懇願を無視してジェームズは一人で納得したように頷く。ああ、私の馬鹿丸出しのレポートを読まれるなんて…!!
「ぜ、全然できてないから!馬鹿なのは分かってるから返してってばあ!!」
「うん?僕はこのレポートを見て馬鹿だとは思わないよ?」
レポートから顔をあげたジェームズの顔はきょとんとしている。そしてそんな彼からの言葉に、私は固まってしまった。
「人と考え方が違って、自分の意見をしっかり述べている素晴らしいレポートだよ。ね?シリウス」
「??おう!」
「全然分かってないんだ、君」
ジェームズに同意を求められ、嬉しそうに同意するシリウス。しかし、その顔には「全くもって分かりません」と書かれていたのが私でもわかった。
呆れたように、でも楽しそうに「やれやれ」と呟いてジェームズは再びこちらを見る。
「ねえ、ファースト」
「は、はい?」
「君の独特の視点からの考え、僕は好きだな。良かったら、君の目線からアドバイスとかくれないかな?」
「アドバイス…なんで?」
「ああ、ここにも分かってない子が一人…」と呟き、ジェームズはシリウスの方を見る。えっと、さっきのシリウスと同じだと思われたってことなのかな?
よくわからないで首を傾げると、ジェームズはにっこりと太陽のような笑みで告げたのだった。
「僕たちと友達になろうってことだよ!」
それが、私がジェームズとシリウスと友達になったきっかけだった。
***
ガクガクと膝が震える。
あのお方はきっと今頃ポッター家に行っているだろう。なにも知らないジェームズとリリー、それに生まれたばかりのハリーはなにも知らずにハロウィーンを楽しんでいるはずだ。
「あ、ああ…」
私は何故今恐怖を感じているのだろうりあのお方のために成さることに喜びを感じなければいけないはずなのに、死喰い人として誇りに感じなければいけないはずなのに。
「ジェームズ、リリー…」
後悔をしているのだろうか、友達を裏切ったことを。そうしなければならないとあのとき確信したはずなのに。
「ごめ、なさ…っ」
目から涙がこぼれ落ちる。
もしかするとジェームズもリリーも…ハリーもこの世にはいないかもしれない。謝ったって許されない。
『僕たちと友達になろうってことだよ!』
友達になってからずっとジェームズは私を守ってくれた。本当に私の太陽となっていた。それなのに私は、私自身が自らの太陽を落としてしまったのだ。
「ごめんなさい、ジェームズ…!!」
最初で最後の、人のために流した涙は誰にも気付かれることはなかった。
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