shortstory | ナノ


  Knockturn Aller(ノクターン横丁)


「鬼ごっこしようか」

にこやかに、しかし人を馬鹿にしたような上から目線のマルシベールに腹が立つ。
と、いうか提案が急な気がするのですが。

「俺が鬼でファミリーが逃げる。適役じゃない?」

「…夏休みに急に呼び出されたと思ったらそれだけ?」

呆れがちに聞けばマルシベールは「もちろん」と当たり前のように答える。

…いや、彼にとっては当たり前なのかもしれないけど、世間一般の常識からはだいぶかけ離れてるでしょうが。

「いや?」

「いや」

「じゃあこうしよう」

ピンっと人差し指をたてて彼はいつも通り薄い唇を笑わせる。
…交換条件でも出すつもりだろうか。

「30分以内にここ、ノクターン横丁内で俺から逃げきれたらファミリーの勝ち、俺が捕まえたら俺の勝ち」

「はい」

「で、勝った方の言うことを負けた方は何でも聞くっていう」

なんてテンプレなことだろうか。

…でも、そういえば私新しい呪文書が欲しいんだった。それも恐らく入るんだよね?

「良いわよ」

「そう来なくちゃ。じゃあ1分後に追いかける」

「分かったわ」

ノクターン横丁は狭いけど本気になれば逃げきれるわよね、私の足腰舐めないで欲しいものだわ!





「なんでラバスタンが協力するのよ!」

「ファミリーを捕まえるってきいたからな」

「俺は友軍を呼んだらいけないなんて一言も言ってないしね」

ノクターン横丁の裏通り、あまり人の来ないそんな場所で私はラバスタンに子猫を口に銜える母猫のように襟を掴まれていた。
絵面的にはむしろチンピラに絡まれている図にしか見えないでしょうけど。ていうかチンピラでも間違いではない気がする。

「ありがとう、ラバスタン」

「おー。今度なんか奢れよ」

「覚えていたらね」

立ち去ってゆくラバスタンに何かを投げつけたマルシベールが今度はラバスタンの代わりに襟をつかんでくる。

「…で、ファミリー?」

「約束だものね、何でも言うこと聞くわよ」

…さて、お財布の中にはいくら入っていたかしらっと。
この男のことだから、財布の中身が無くなろうと構わないだろう。

「ファースト」

「あら久しぶりね、名前呼び」

「そうだね」

そういってからマルシベールは私の手を握って微笑む。
その微笑みはいつもの見下したような笑いとか出なく、純粋に優しい微笑み。

「また来年もいっしょに居ようか」

「…え、もしかしてそれ?」

「ホントは何かしてもらおうと思ったんだけどね、いいや」

「左様ですか」

それくらいならやすやすと叶えることができるしいいかな。

「じゃあまた来年も鬼ごっこしようか」

「…てかなんで鬼ごっこ?子供の遊びじゃない」

「ファーストが走るの得意なことを考慮したうえでだよ」

「私の為ってこと?」

「いや。得意なもので俺が勝つってなんか良くない?」

「性格悪」

そうは言いつつも私も笑う。

来年もいっしょにいようね。

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