そんな未来すら愛しい
ホグワーツは世界で一番安全だと、そう豪語できるだろう。しかし、いくら安全だろうと問題は起きる、事件は起きる。
小熊と母熊が冬眠の為にねぐらに入り、雪から身を守ったからといって死なないわけではない。小熊同士が…あるいは母熊が牙を向けば、雪がなくとも命の灯火を消すことはできる。
それと同じことでホグワーツも100%の安全は保証されていない。だからこそ今回も事件が起きてしまったのだろう。
ハッフルパフの女子生徒がふくろう小屋で死体となって見つかったのはまだ四日前のことで教師も生徒も、生徒の保護者の記憶にもまだ新しい筈だ。
日刊予言者新聞でもこのことは大々的に一面に載ったし、その日以降も新聞のどこかに必ず載るほど。
直ぐに何人かの生徒は両親に連れられてホグワーツを後にしたし、授業も半日で終わることが多くなった。
殺された女生徒がマグル生まれだったら恐々震えるのはスリザリンの生徒以外、と絞られたかもしれないが、不運にも今回殺されたのは純血の生徒。よってグリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクローの三寮生だけでなくスリザリンの生徒も含めた全校生徒が震え上がっている状態だ。
唯一恐怖を見せないのはスリザリンの中でも濃い純血主義者だけで、彼らは「殺された女子生徒は純血だが純血主義者ではない」とあくまでも自分達は平気だと主張している。
被害者はハッフルパフの女子生徒以外出ていないからその主張が正しいかは分からない。…犯人以外は。
カツンカツン、反響するのは私が待っている相手の足音だったようで、キィッ…と扉が開くと彼はいつもの雰囲気で微笑んだ。
「こんばんは、リドル」
「やぁファースト、気分は?」
「よくも無いけれど悪くもないわ」
毎晩会うときに私達はこんな挨拶をしていた。
付き合ってから二年たったのだろうか、ホグワーツでは今殺人事件に教師たちが頭を悩ませて騒がしいのにこの空間はとても静か。
「ベンチに座らないの?」
「今日は立ちたい気分だから」
なんだそれは。そう思ったけどそれがリドルなりの気遣いだと分かって少し嬉しくなる。
彼が私に近づいてきたので「寒くない?」と聞けば「暖かいよ」との返答。相変わらず謎な人だ。
「僕はファーストが隣に居れば何処でも暖かいよ」
「キザだ…キザリドル」
呆れた溜め息を吐いてもリドルからはいつも通りの微笑みしか帰ってこない…それはそれで寂しい。
「そういえばファースト、ほんとにあの事誰にもいってないんだね」
「あぁ、殺人事件の犯人があなたってこと?」
何事でもないようにそのことをいうとリドルはルビーの色とも血の色とも言える真っ赤な瞳を細めてじっと私を見てくる。獲物を狙う蛇のようだ。
「…言える訳ないじゃない」
「何故?君が僕を犯人だといえば一発で信じてもらえる筈だ。
――殺されたハッフルパフの女子生徒であるファースト・ファミリーの台詞なら、ね」
私の頬に手を添えるつもりだったのか、しかし私には体がないのでリドルの手はすり抜けてしまう。
「言いたくないわ。私はあなたの未来を壊したくないもの」
「ゴーストになることを選んだのに?」
「だってこの姿ならあなたが死ぬまでとり憑けるでしょ?あなたがしつこいと思っても憑いてるわよ」
「しつこいとは思わないさ」
そう言ってリドルは何もない…敢えてあるとするならゴーストである私の唇に口付けをした。悲しいけれど彼の口には冷えた空気が当たっただけ。
あぁ、早く彼に私と同じところへ来てほしい。人の生死についてあまり語りたくはないけれどそれでもリドルがこちらに来てしまう未来が待ちどおしい。
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