I saw you | ナノ

  01


魔法薬学はセブルスの得意科目の1つで、エイブリーの苦手科目の1つ。ラバスタンはどちらかというと意外だけど得意なほう。じゃあ俺は、と聞かれればどちらでもないという曖昧すぎる答えになる。
少しだけ角度を変えて好きか嫌いかで表してみたら嫌いよりの普通? 少なくとも呪文をバシバシ飛ばすような授業に比べたら理論を叩き込んでからの手作業なんて退屈この上ない。
それに加え、今日の魔法薬学のペアはレイブンクローの優等生とのペアだ。セブルスほどではないけれど手際の良かった彼との調合はあっという間に終わってしまい、やはり退屈になる。隣のレイブンクロー生はレポート作成していて話し相手にもならない。

なにか楽しいことはないか。そんなことをぼんやりと考えながら適当に他のペアを見回しているとふと、斜め前の位置で調合していたラバスタンとレイブンクローのソーラシの姿が目に入る。
あの2人のなぜだか知らないけど仲の悪さはスリザリンとレイブンクローの同級生じゃ知らないものはいない。にも関わらずスラグホーンの強制的なペアに逆らえずに、眉間に皺を寄せながらお互いぶつぶつと言い合って罵倒しあいながら、調合の最後の仕上げに取り掛かっている。

「てめえとペアじゃなければもう終わって寝てたのによ」

「あら、人のせいかしら」

「当たり前だ! ソーラシが教科書を2度も3度も見直さなけりゃ良かっただろ!」

「は!? 私が手順と留意点を叩き込んだお陰でイモリの尾を入れるタイミングが間違えって気づいたんじゃない!」

「教科書開きっぱなしにしとけばそれも確認しながら見れるんだよ!」

ああ、ヒートアップしてるヒートアップしてる。むしろよくこの時間まで何事もなくーー恐らくずっと言い合いはしてただろうけどーーいられたものだ。

彼らの声がどんどん大きくなるにつれて周りの生徒もチラチラと彼らを見だす。真剣にレポート作成をしていた俺のペアのレイブンクロー生もちら、と2人の姿を見て、主にソーラシに向かって「イズミ、点数……」と頭を抱えた。
優等生ばかりのレイブンクロー生のなかで本人ももちろん優等生だけどラバスタンとしょっちゅう呪いを放ち放たれしているソーラシは点数がマイナスされることが多い。頭はレイブンクローらしく良いみたいだし、クィディッチの選手もしている分点数をプラスされることもあるけど、隣の彼を見る限りそれじゃ足りないくらい点数マイナスされまくってるんだろうなあ。それに、今はまだ小声の類に入る怒鳴りあいだから何も言わないけど、うちの寮監が気づかないわけないし。

「マルシベール、あれ止めなくて平気か?」

どこからかひょっこりと現れたエイブリーが俺に聞いてくる。エイブリーはエイブリーでラバスタンが点数をマイナスすることを恐れているんだろう。だって彼はスリザリンの監督生だ。マイナスなんてされたら先輩たちに1番文句言われる。

確かに俺もスリザリンの点数がマイナスされるのは心苦しい。でも正直、レイブンクローがマイナスされるのは自分で軽く引くほどどうでもいい。それに、退屈な状況から一変、こんなに面白そうな状況になったんだから。止めたくなんてない。

「その笑みで分かった。でも止めてほしい」

「自分で、止めたいって意志はあるんじゃないか」

そう言ってみればエイブリーは諦めたように視線をそらす。そんなエイブリーを含めて俺はニヤニヤと口角が上がっていくのが止められない。

ソーラシには全く興味がなかったわけじゃない。それは、彼女がラバスタンと関わるとかなりの確率で面白いものが見れるから。掴み合いとか掴み合いとか、それはもう杖を使うこともあるけどその存在を忘れるかのように素手の殴り合いだ。2人とも純血の魔法族の出身なのに。

ラバスタンは短気だし頭に血が上りやすいけど、ソーラシ以外の相手だったら大体呪文でなんとかする。体格はいいし、喧嘩慣れはしているけど、ラバスタンの底なしの魔力があれば呪文の1振りで相手は大人しくなるから。
そんなラバスタンがわざわざ自らの拳で黙らせようとする相手なんてソーラシしかいない。だから面白い。だから俺は彼らが殴り殴られするのを見るのがすきだ。退屈よりも俄然こっちのほうがいい。

とうとう、ガタッと椅子を音立てて2人は立ち上がった。体格差はあれど、どちらも相手を怯ませるかのように、まるで睨みつける。はは、まるでヤンキーだ。2人とも名家の出身だって聞くのに。

「きみたち、授業中だよ。席に座りなさい!」

スラグホーンの声など聞こえていないらしい。
睨み合った末に、先に動いたのはソーラシだった。

「コンフリンゴ!」

おっ珍しい。まさかこの相手同士で呪文を使うなんて。

ソーラシがラバスタンに杖を向けていたのでてっきりラバスタンの付近でなにかが爆発すると思った。
しかし、見ていただけの俺より素早く反応したらしく、ラバスタンは呪文も唱えずにソーラシの魔法を別の場所で発生させた。教室の隅の方で爆発する音と、騒ぎ出す生徒たち。……単純な魔力とセンスではラバスタンのほうが上だったようだ。しかも今の無言呪文じゃない? 5年生で無言呪文をできるって。

「イズミ! 落ち着いて!」

レイブンクローから悲鳴のような声が上がる。それとほぼ同時にエイブリーも叫んでいた。

「マルシベール!」

「やだよ」

ここからが楽しいんじゃん。
そう言えば、エイブリーは諦めたかのように首を横に振る。そしてセブルスとなにか話し合ったあと、彼らは動き出した。
視線をラバスタンたちに戻せば彼らはまさに交戦中。スラグホーンの言葉も完全に無視して様々な色の呪文を出し合っている。

「くたばれ!」

「きみがな!」

ほんと、飽きさせることがない。楽しい。もっと彼らをひとまとめにして見てみたい。
これから起こるであろうことをあれこれと想像しながら彼らを見守る。
2度目、3度目の閃光が飛ぶ。次はなんだ、次はなんだ。

「これは一体どういうことですか!」

鋭い声が教室中に響いた。思わず舌打ちをしてしまう。これからがいいところだったのに。まさかマクゴナガルが出てくるなんて聞いてない。
マクゴナガルの後ろに立つレイブンクローの生徒を見て、ああ彼らが呼んだのかと理解する。それと同時になんだか無性に腹が立ってきた。余計なことしないでくれるかな、と。

「ま、マクゴナガル先生!? これは違うんですよ!」

あわあわと慌て出すソーラシ。

「言い訳は結構です」

しかしピシャリと返すマクゴナガル。これはちょっと面白い。

「またあなたがた2人は……。今回の件も校長に話させていただきます」

「ダンブルドア先生に言うのは良いんですけど、どうかリリーにだけは言わないでください! 罰則でもなんでも受けますんで!」

「バカだろお前。こんだけ見てる奴らがいるんだからエバンズの耳にもあっさり入るっての」

「なん、……うぐぐっ」

ラバスタンの正論にソーラシは言い返せないらしく、唇を噛み締めてラバスタンを睨みつけるだけだった。

なるほどー、ソーラシが慌てたのって友達のエバンズにこのこと知られたくなかったからなんだね。エバンズ、グリフィンドールの生徒だし、寮監のマクゴナガルと話す機会多いだろうしねえ。

その後、いつの間にか授業は終了し、俺たちはエイブリーに引きずられるように次の授業の教室へと向かった。エイブリーから聞いた話だと、スリザリンとレイブンクローからは10点ずつ減点だって。笑うよね。

2017/04/16

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