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魔法省の中を歩きつつ、周りの魔法使いたちの言葉に耳を傾ける。誰も彼も、話題は今日の日刊預言者新聞に載っていたもののことだ。
「死喰い人がアズカバンを脱獄してーー」
「シリウス・ブラックが手引きしたという噂だな」
「吸魂鬼共は一体何をしている……!」
そんな話を聞き流さないようにある程度聞きつつ、私はかなり大きめの部屋に入る。闇祓い局の事務所だ。
既に出勤していたドーラに軽くあいさつをし、キングズリーの隣の自分の席に座る。隣の彼はどこか疲れたように苦笑いをしていた。
「おはよう、キングズリー」
「おはようイズミ。……新聞は見たかい」
「ええ、まあ」
くすくすと笑ってみせる。
キングズリーにとっては、というか闇祓い局や魔法省は笑いどころではないのだろうけど、そんな彼らを見ていたら私だけなんだか可笑しく思えた。おかしいのは私の頭だろうか。
キングズリーの机の上には新聞が雑に置かれている。1面を飾っているのは死喰い人がアズカバンから脱獄するという、恐ろしい事件の記事。
「新聞みせてもらっていい?」
「いいよ。けど昨日きみが知ったことしか書かれてないけど」
「それでもいいの」
手に取って確認してみれば、記事だけでなく死喰い人の写真も載っていることに気付いた。大半は気だるげにしているものの、何人かは面白そうにこちらに手を振ったり笑いかけたりしている。
ふと、1人の死喰い人に目が止まる。そういえば彼も脱獄者の中の1人だったな……。
白黒で分かりにくいが、艶がありキラキラと輝く自分の銀髪を無造作にかきあげながら気怠げにこちらに笑いかけている。
これは10年前の写真だからまだ元気そうだけど、10年以上のアズカバン生活を経てからの彼の姿は見た覚えがない。元気そうではないだろう、だって10年以上のアズカバン。私なら気が狂ってしんでるわ。
まあ、元気でも元気でなくてもどうでもいい。ただ私のわがままなのだけど、
「会いたいなあ」
彼、マルシベールに。
「誰に?」
「彼氏?」
「別に恋愛面で会いたいっていったわけじゃないのよ!?」
慌てて否定するも、キングズリーやドーラにニヤニヤとどこか生暖かい視線を送られる。
違う。恋愛面じゃなくて、今彼がどれだけ元気じゃないか知りたいだけなのだ。本当にそれだけだ。
2017/04/16
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