デクスの持っていたグラキエスのコアを無事回収したところでリヒターの襲撃を受け、クライサたちはデクスを逃がしてしまう。

「ごめんねエミル、マルタ。あたしとゼロスもう全力出しきっちゃった」

「いやー、まさかボス戦が続くとは思わなくてさー。わりーわりー」

「ちょっと!二人ともTPすっからかんじゃん!」

「セレスさらわれた怒りに任せてつい飛ばしすぎちゃった。てへ」

「ついでにオレンジグミとミックスグミ使いきっちまったんで」

「何してくれてんだテメェら!!」

「パイングミは!?さっき拾ったでしょ!?」

「落ちてるもの食べちゃダメなんだよ」

「俺さま、落ちてるもの拾って生活するほど金に困ってねぇし」

「(まるでダメだ世界再生の英雄たち!)」

「もう黙って通常攻撃でTP回復に励め馬鹿野郎ども!!肝心な時に使えねぇな!!」

「いや別に肝心な時でもないよ。このイベント戦は負けても話が進むってプレイヤーの……じゃなくて、あたしの勘が告げてる」

「どうせ倒したところで経験値とガルドくらいしか手に入んねぇよ」

「黙れっつってるだろうが!!」

推奨レベル33のダンジョンで出てくるレベル60の敵を相手に、ほとんど通常攻撃しか使えないクライサとゼロスがかなうわけもなく、二人は呆気なく戦闘不能にされてしまう。
リヒターはエミルとマルタをも打ち破ると、剣を取り落として丸腰となったエミルの首を掴んで締め上げた。

「リヒターさん……どうして……」

ラタトスクモードの解けたエミルが、緑色の瞳を涙に潤ませる。霞む視界に映るリヒターの目と、グローブ越しに伝わる感覚が、彼が本気であることを伝えている。

「……エミル。許してくれとは言わない。あの世で俺を呪え!」

「……リヒター……さん……」

エミルの薄れていく視界の中で、リヒターが斧を振り上げた。もうダメだ、とエミルが観念した時、

「……アス……テ……ル!」

リヒターの苦しげな呟きが聞こえた。硬直した彼の姿を不思議に思う間もなく、背後で風が起こるのを感じる。

「だりゃあ!!」

「くっ……!」

エミルの首を締め上げていた手が離れ、彼は床に膝をついて咳込んだ。いくらか呼吸が落ち着いたところで顔を上げれば、翻るマントと空色の髪が目に入る。クライサだ。少女は肩で息をしながらも双剣を握り直し、斧を構えるリヒターを正面から睨み付けている。

「リヒターさま!」

慌てた様子でアクアが呼ぶ。彼は苦しげな目でエミルとクライサを見つめた後、踵を返して出て行ってしまったのだ。アクアもその後を追う。

一時の静寂に、クライサは大きく息を吐いた。ゼロスとマルタも、痛む体に顔をしかめながら立ち上がる。

「……アステル……?」

エミルは未だ座り込んだまま、リヒターの苦しげな声を思い出していた。彼の呟いた『アステル』とは?ひとの名前のようだったが……

「エミル、大丈夫?」

「あ……う、うん。ありがとう、クライサ」

立ち上がることの出来ないでいるエミルを心配したのだろう、眉を下げたクライサに手を差し伸べられ、慌てて頷いてその手を取った。

「……セレス!」

優位に立っていたにも関わらず、とどめを刺さずに去っていったリヒターの行動は不思議だが、今はそれどころじゃない。はっとした様子で妹の名を口にしたゼロスが走り出すので、エミルたちはその後に続いた。





「……さすが、世界再生の立役者。アリスちゃん、ちょっとピンチかな」

ロイドを筆頭に、コレットとしいな、リーガルに追い詰められたアリスは、それでも余裕のある様子で鞭をペチペチと鳴らしている。
そこにクライサたちが駆け込んできた。ゼロスはセレスの手を取り無事を確かめる。

「お前たちもコアを持っているな。それを渡せ!」

「だ・め♪」

双剣を構えたロイドがアリスににじり寄るが、彼女は可愛らしく小首を傾げてみせた。

「お前たちの目的にコアは必要ないだろう」

「ヴァンガードの目的って、シルヴァラント王朝の復活……?」

「シルヴァラント王朝の復活?何を寝ぼけたことを……」

「あら、総帥は本気みたいよ。ブルート総帥は800年前に滅んだシルヴァラント王朝の子孫なんですって」

その時、テネブラエがひとの気配を察知して二階の回廊を見上げた。そこにはデクスの姿があり、ともにいた風船のような魔物が降りてきて、アリスをデクスの元へと連れて行く。

「知ってるかい。シルヴァラント王朝はクルシスの天使とマーテル教会に滅ぼされたんだぜ」

「マルタちゃん、戻っていらっしゃいよ。ラタトスク・コアを持って帰れば、ブルート総帥も許してくださるわよ」

二階のバルコニーからマルタを見下ろしてアリスは微笑みかける。マルタは、キッと彼女を見上げた。

「……戻らない、絶対に。パパの馬鹿げた野望を打ち砕くために、私はラタトスク・コアを持ち出したんだから」

頑固なコは嫌われちゃうんだからね、と笑ったアリスは、デクスとともに立ち去っていった。彼らの姿が完全に見えなくなると、マルタは複雑な思いにうなだれてしまう。
ひとまずメルトキオに戻ろう、というリーガルの提案に仲間たちは頷き、出口へ向かうことにした。






……の、だが、砦の出口でまた一騒動起こる。
ロイドに今までの件を謝り、何故コアを集めているのか、自分たちで手伝えることはあるかと尋ねたエミルに、ロイドは今すぐすべてのコアを渡せと剣を向けたのだ。事情を話してくれという仲間たちの訴えもむなしく、彼は何も言わずに去って行ってしまう。
後を追いかけたい気持ちは山々だが、レアバードを持っているロイドには追いつけないだろう。そしてセレスの体調も思わしくなく、一行はひとまずゼロスの屋敷に戻ることにした。





本当に、アイツは何を考えているのやら





 
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