というわけで、メルトキオの東南、岬の砦へとやってきました。

「虎牙破斬!」
「ストーンブラスト!」
「魔神剣・双牙!」
「イラプション!」
「獅吼旋破!」
「サンダーブレード!」

次々に現れるヴァンガード兵や魔物たちを、クライサとゼロスが抜群のコンビネーションで瞬殺していく。ほとんどやることのないエミルとマルタは呆然と彼らの掛け合い(リザルト画面)を眺めるしかなく、しいなとリーガルは若干呆れた様子でその後に続いた。

「魔神剣!」
「フリーズランサー!」
「閃空裂破!」
「アブソリュート!」
「閃光墜刃牙!」
「ブラッディハウリング!」

今度はゼロスが前衛で剣を振るい、後衛のクライサが術で敵を一掃する。また次の戦闘ではクライサが前衛、ゼロスが後衛を務め……と、完璧な役割分担がなされている。

「クライサちゃん」
「ゼロス」

お互いにオレンジグミを渡しあってTP回復まで出来てしまっているため(オートアイテム)、プレイヤー側は何もすることがない。

「クライサもゼロスも、すごく強いね……」

「ああ……よっぽどセレスのことが心配なんだろうねぇ。二人とも、ほとんど本気で潰しにかかってるし」

「僕たち、やることないですね……」

「うむ……下手に近付くと、我々まで巻き込まれかねんからな……」

そんな会話など聞こえないクライサとゼロスは、またヴァンガード兵を倒してガルドとEXPを手に入れた。レベルアーップ!と声高らかに宣言しながらクライサは双剣を華麗に回す。その腕に小さな傷を目ざとく見つけたゼロスにファーストエイドをかけられながら、ふと後方に目をやった。

「ゼロス、しいなが落とし穴に落ちた」

「……あいつ……」

抑揚なく告げられた言葉にゼロスはがっくりと肩を落とした。少女の視線の先に目をやれば、こちらと同じ心境らしいリーガルと、慌てふためいているエミルとマルタの姿が見える。
しいなは自分が捜すからセレスのことを頼むとリーガルに促され、エミルたちとともに先へ進むことにした。

「それにしても、セレスはさらわれるわ、ハニーの偽者は出るわ、しいなは落とし穴に落ちるわ……どうしてこう、俺さまの周りには事件が頻発するんだ」

「しいなが穴に落ちるのはデフォルトでしょ」

「それはそれで問題だろうが」

ミズホの頭領が穴落ちの達人じゃな。
遠くを見るような目をしたクライサがふっと笑う。

「す、すみません……」

「ごめんなさい……」

それを聞いていたマルタとエミルが思わず揃って頭を下げると、ゼロスは足を止めた。

「……なんでお前らが謝るんだよ」

しどろもどろになる二人に、これでは自分が悪者みたいではないかと溜め息を吐く。

「私たちのせいで、セレスさんが……」

「そう思うなら、しっかり助けようって気合い入れてくれるほうがよっぽどマシだ。お前らがしおらしくしてたって、セレスが助かるってもんでもねぇんだぞ」

「は、はい、すみま……」

「ストーップ」

エミルを遮ると、二人の顔をじっと見る。

「俺さまはセレスを助けたい。ただそれだけだ。お前らをいじめても楽しかねぇの。……言わんとすること、わかるかな?」

「……はい!」

「必ず、セレスさんを助け出します!」

「そうそう、そーゆーことよ」

二人の返事に満足した様子でにこやかに頷いたゼロスは、蹲って笑いをこらえているクライサの脳天に拳骨を落とした。





「うわーんエスケープしたーい」

「したらエクスフィア剥ぎ取るからな」

「うあぁん殺人予告!!」

奥に進むにつれ、あたりにメロメロコウらしき匂いが濃くなってくるのが、クライサの逃避願望の所以である。だって屋外ならまだしも、こんな匂いのこもりそうな場所でアイツに会うなんて耐えられない!
といって、宣言通りエクスフィアを取り上げられるのも困るので大人しくついて行くと、突き当たった広間でふたりのロイドが斬り結んでいるところに出くわした。

「みんな!力を貸してくれ!あの偽者を倒すにはみんなの協力がいるんだ!」

「騙されるな!あいつは偽者だ!」

どちらかがデクスなのだろうが、メロメロコウの匂いが充満していて嗅ぎ分けるのは不可能だった。エミルとマルタにはどちらのロイドが本物なのか見分けがつかない。
対して、ゼロスとクライサはロイドたちの戦いをじっと見つめている。

「……クライサちゃん」

「トマトの準備なら万全ですぜ」

「どっから持ってきた」

「とりあえず両方にぶつけてみようか」

「それ、本物のHPも大幅に削んぞ」

「そしたら逃げないかなと思って」

「よし、じゃあ投げろ」

「ちょっと待てよゼロス!クライサ止めろよ!!」

「あ、あっちが本物だね」

「トマト効果すげぇな〜」

もちろん、親友を豪語するゼロスにも、太刀筋を見分けられるクライサにも、どちらが本物かはわかっていたが。
二人のやりとり+ロイドの反応でようやく偽者に見当がついたエミルが、一方のロイドに斬りかかる。跳ね飛ばされたその人物は大きな弧を描き、ドサリと落ちた。その体から不気味な煙が上がったかと思えば、その姿はロイドのものではなく、紫の長髪の男へと変わっていた。

「デクス!!……まさか、今まで街を荒らしていたのもパルマコスタを襲ったのも、本当に……」

マルタが震える声で言う。起き上がったデクスは、ばれたか、と肩を竦めた。

「マルタにはからくりを教えるなって言われてたんだがなぁ」

「ど、どういうこと!まさか……まさかパパの指示で……」

パパ、というのは以前に氷の神殿でデクスが化けた、あのマントの人物だろうか。不思議そうにしているエミルの様子に、デクスがおかしそうに笑った。

「なんだ。マルタ、何も話してないのか。そりゃそうだよな。話したら、そいつらと一緒にはいられないもんな」

どういうことなのだ、とエミルはマルタに問う。そのとき、ブーツの音を響かせ、奥の暗がりからアリスが現れた。彼女の横にはセレスの姿があり、アリスはその腕をしっかりと掴んでいる。

「マルタちゃんは、我らがヴァンガードの総帥であるブルートさまのひとり娘なの♪」

「じゃあマルタはお母さん似か。よかったね!」

「あぁまた空気壊す!」

またぶん殴られた。

アリスはセレスを人質に、クライサたちから武器とコアを取り上げようとする。それらをマルタに持ってくるように命じ、セレスの腕を掴む手に力をこめた。

「センチュリオン・コアまで集めて何をしようとしてるんだ!」

「本命はラタトスクのコアだよ。コア集めはブルート総帥の個人的な趣味みたいだぜ」

「も〜!よけいなこと説明しなくていいの!」

「ご、ごめんよ、アリスちゃん」

「……どうしよう、ゼロス。ジャッジメントぶっぱなしたい」

「同感だが、セレスのために耐えてくれよ」

アリスに促され、マルタが意を決して歩き出そうとした時、

「……そうはいかないよ!」

奥の暗がりから飛び出したしいなが、背後からアリスを突き飛ばす。少し離れた場所まで飛んだアリスを助けようとしたデクスの視界に、輝く輪が煌めいた。とっさにアイアンメイデンを盾にしたが、チャクラムの威力でデクスは仰向けに転倒する。

「やらせないんだから!」

しいなの隣に立つコレットの手に戻ったチャクラムを、彼女は構え直した。

「お前たちの好きにはさせぬ!」

そして立ち上がろうとしたデクスをリーガルが背後から蹴り飛ばす。前のめりに倒れた男の姿に、クライサはうわぁと呟いた。

「しいな!リーガルさん!それにコレット!?」

エミルが驚きの声を上げると、三人は小さく笑って頷いた。
アリスが飛ばされてすぐにセレスを保護していたロイドに、ゼロスが叫ぶ。

「ロイド!セレスは!?」

「ーー無事だ」

「セレスは任せて!」

コレットもゼロスに叫ぶと、ロイドを促して走り出す。広間から出て行く三人に、しいなとリーガルがすぐさま続いた。

「逃がさないんだから!」

「待て!」

「そうはいかないな。ここは俺がアリスちゃんの盾になる!」

アリスがすかさず立ち上がり、走り去る。エミルたちはその後を追おうとするが、ようやく体を起こしたデクスがアイアンメイデンを引きずりながら立ち塞がった。
が、

「香水のつけ方も知らねぇダサ男くんが、俺さまの邪魔するんじゃねぇよ……!」

「せっかくセレスとコレットに会えたってのに、あたしの邪魔してくれてんじゃないよ……!」

それぞれ夕焼け色と若葉色の羽を背にした者たちの姿に、デクスは思わず震え上がる。

「「ジャッジメント!!」」

重なる声を聞きながら、降ってきた無数の光に走馬灯を見た気がした。





デクス戦、終了





 
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