「神子ゼロス。セレスがハニーにさらわれたとか」

「正確に言うと、ハニーの偽者です。恐らくヴァンガードの仕業でしょう」

エミルとマルタを伴って王城へ訪れたゼロスとクライサは、すぐに謁見の間に通され玉座についたテセアラ王、ヒルダ姫を前にすることとなった。王直々に久しぶりだなと声をかけられたクライサは応じて頭を下げる。が、その後ゼロスへ向けられた言葉に、彼女の表情が死んだ。

「クライサちゃん、顔」

「うん、いや、ごめん。だってさ」

「いい加減慣れろよ」

いや無理、と口には出さず、小刻みに首を振る。ほんと何度聞いたって慣れやしないんだ、ゼロス以外の、ロイドのハニー呼び。何度聞いてもロイドが可哀想になってくる。

「あの……どうしてハニーなの?」

「俺さまの親友だから」

エミルとマルタは顔を見合わせた。答え雑だな、おい。

その後リーガルとしいなが到着し、同じように謁見の間へと通される。新たな情報を得た、という彼らによると、メルトキオの東の空へ飛んで行くレアバードが目撃されたらしい。
メルトキオの東というと、岬の砦にあるヴァンガードの拠点に向かったのではないか。マルタの発言に、何故そんなことを知っているのかと当然の疑問が集まる。ゼロスがにやりと笑った。

「さすが、元ヴァンガード」

テセアラ王が息を飲む。

「ヴァンガードの一員だと……」

「そんな、まさかマルタ……!」

「なんでクライサまでそのリアクション!?」

「だいぶ序盤で話したよね!?」

「クライサちゃん、話進めにくいから」

「ごめんなさい」

ぶん殴られた。

まぁ今のマルタはヴァンガードとは関係ないし、セレスの命のほうが大事だからと、武器を構えた兵士たちをゼロスの声が抑える。そして彼は改めて玉座に向き直り、話を戻した。

「今のところ、ヴァンガードが私のところに接触してくる気配はありません。となると、セレスを拐かした目的は私ではなくロイドではないかと思うのですが」

ロイドは少なくとも、ルーメンのコアを持っている。同じくコアを集めているヴァンガードは、セレスを利用してロイドと取り引きしようとしているのだろう。

「まあ、こいつは偶然なんだろうけどな」

「たまたまセレスがコアを手に入れた。ヴァンガードはそれを奪うついでに、セレスを利用することを思いついた……ってとこかな」

「デクス……なんてことを……!」

ゼロスは、ヴァンガードの拠点とやらへ侵入する自分たちが空振りだった場合を考え、王立軍には別にセレスの捜索をしてほしいと進言した。王はすぐに頷き、しいなにミズホの民がすでに動いていることを確認する。

それから城を出、広場まで戻ったところでエミルが仲間たちを呼び止めた。

「……みんな、ごめん」

突然謝られたことに皆が面食らう。深々と頭を下げたエミルは、ロイドのこと、と続けた。

「もしかしたらロイドがやってきたひどいこと、みんな偽者の仕業かもしれないって思って……」

パルマコスタ、ルイン、フラノール。彼が知っているだけでも、ロイドが関わっていると言われた襲撃の数は決して少なくない。その被害を実際目にし、怒りや憎しみを深くしてきた。だが、もしかしたら。

「わかんないよ。もしかしたら今回だけ偽者だったのかもしれないし、やっぱり今回も本物のロイドの仕業なのかもしれない」

だが、コレット、リフィル、ジーニアス、リーガル、しいな、ゼロス、そしてクライサ。ロイドの仲間だという人々に会うたび、どうしても同じ人の話をしているようには感じられなかった。
クライサたちにとって、エミルがそう思うようになってくれたのは嬉しいことだ。だが真実は彼女らにだってわからない。クライサがエミルたちと行動する理由だって、元はといえば真実を知るためだったのだ。

「僕は真実がまだ何もわからないってことに気付いた。だから、謝りたかったんだ」

「……なら、一時休戦だ」

ゼロスが軽い調子で言う。

「さっき禍々しい目つきで俺を睨んだときは感じの悪いクソガキだと思ったが、話してみれば素直ないい子でねーの」

「ゼロス!そんな言い方はないだろ。あんたが感じ悪いと思ったのは、きっとラタトスクモードのエミルだったんだよ」

「うむ……エミルはラタトスクモードとやらになると、少々荒い性格になるようだ」

仲間たちが重ねる言葉を聞いていたマルタが、エミルの前に飛び出し、かばうように両手を広げた。

「やめて!もうひとりのエミルを非難しないで!あのエミルもエミルなの!エミルは一生懸命なんだから、そんな言い方……」

マルタにそう言われて、しいなとリーガルはすぐに、言葉が過ぎたとエミルに謝った。だが当の本人はしどろもどろになってしまう。

「まぁそうだねー。あれはあれで、からかい甲斐あって面白いし」

「へー」

満面の笑顔を浮かべて親指を立てたクライサに、いいことを聞いたと言わんばかりの表情でゼロスがにやりと笑む。そんな様子を目撃してしまったテネブラエは、ああ、いい話だったのに、とうなだれた。





悪ガキコンビ復活




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