メルトキオに戻るとすぐ、ちょうど街を出ようとしていたらしいリーガルとしいなと合流出来た。テネブラエが無事を知らせるように姿を現してみせれば、彼らも安堵の笑みを浮かべる。

「で?二人とも、陛下にグラキエスのコアのこと話してくれたんでしょ?」

「うむ。そのことで進展があったので、お前たちを迎えに行こうとしていたのだ」

進展というと、コアの持ち主がわかったのだろうか。エミルが問うと、しいなはその通りだと頷く。やはりメルトキオの貴族が買い求めていたのだと、心なしかげんなりした様子で言うので、クライサには彼らの手に入れた情報に察しがついてしまった。

「あのさ、その貴族ってもしかして……」

「ああ、セレス・ワイルダー様だ」

うわぁできすぎてるー。
思ったが言わない。そのかわり、がっくりと肩を落とした。

「セレスさんって、確か……」

「ああ、アホ神子……ゼロスの妹だよ」

「神子ゼロスの……妹……」

一気に気が重くなってしまった様子のエミルに、クライサとしいなは苦笑した。彼がゼロスに苦手意識を持っているらしいことは、王朝跡での件やトクナガを見かけた後に話した時の様子でなんとなくわかっていた。かといって、気が進まないからと避けるわけにもいくまい。もちろんエミルにもそれはわかっている。目的地はゼロスの屋敷に決まった。

「クライサは嬉しそうだね……」

「え?」

……。
…………。
………………。

「違うよ!?ゼロスに対してどうこう考えてたわけじゃないよ!?セレスに会うのが楽しみなだけだよ!?ちょっとそこ、しいな!によによすんじゃねぇ!」

「クライサも素直じゃないねぇ」

「まったくだ」

「うるさいよ!!」

それ以上からかわれるのもごめんなので、先頭に立って上流区への道を行くことにした。背後からの視線がうるさいが、構うとまた面倒だ、一貫して無視する。

半年ぶりとはいえ、暫くこの街で暮らしていた身だ。迷うことなく目的地に着いた。
しいなとリーガルから既に話を聞いていたのだろう、すぐに応接間に通される。相変わらず広大なワイルダー家の屋敷に、エミルとマルタは驚き、些か居心地の悪そうな様子で室内の調度品を眺めていた。
ほとんど待たされることなく、手入れの行き届いた口髭をたくわえた執事が出てきて、恭しく頭を下げる。

「お帰りなさいませ、ブライアン公爵、しいなさま」

それからクライサと目を合わせ、穏やかな表情に浮かんだ微笑みを少しだけ深めた。

「ごぶさた致しております、クライサさま。……お帰りなさいませ」

そう言ってもう一度頭を下げる執事に、クライサは微か目を見張り、そして破顔した。二年も前に去った異世界の人間、短期間の居候でしかなかった者の訪問を、“帰還”と呼んでくれるのか。

「……ありがとう、セバスチャン。元気そうでよかった」

「クライサさまも、お変わりないようで何よりでございます」

「髪切ったけどね」

「そのお姿もたいそう可愛らしいですよ」

「やだセバスチャンったら、お上手なんだから」

「あー、二人とも、話進めていいかい?」

ごめんごめん、ちょっと懐かしくなっちゃってつい。

「そちらがエミルさまとマルタさま、それにテネブラエさまですね。お話はブライアン公爵としいなさまから承っております」

「あ……ありがとうございます。それでグラキエスのコアのことなんですけど……」

「はい。実はこの屋敷に勤めておりますトクナガという者が、不思議な宝石を手に入れたと申しておりました」

トクナガといえば、エミルたちが最初にメルトキオに来た際、道具屋から出てくる姿を見かけた男だ。どうやらあの時にコアを買い求めていたらしい。
本人を呼んでほしいとセバスチャンに頼もうとした時、ガタガタッと大きな物音が上のほうから響いてきた。そしてすぐに、慌てふためいた男がバタバタと駆け込んでくる。トクナガだ。だが、ちょうどよかった、なんて言える雰囲気ではない慌てようで、青ざめているようにも見えた。

「た、大変です!セレスさまがロイドさまにさらわれました!」

「なんと!ハニーさまがセレスさまを!?」

「ごぶふぅ!!」

「クライサが紅茶吹いた!!」

「ちょっと待ってどれに驚いたらいいの!?」

久々に聞いたから喉が拒絶反応起こした。防御がないところにクリティカル当てられたようなもんだ、仕方ない(ちなみにロイド=ハニーの説明は、エミルたちには悪いが後回しだ)。
トクナガの話では、ロイドは二階の窓から外へ逃げたらしい。クライサたちはすぐに屋敷の外へと飛び出したが、あたりを見回してもすでにそれらしき姿はなかった。

「テネブラエ!グラキエスの気配ってわからないの!?」

「遠ざかっていることは感じます。ですが別のセンチュリオン・コアの気配も交じっていて、はっきりとは……」

別のコア、とはロイドの持っているルーメンのコアだろうか。問うてみるが、テネブラエは首を捻る。

「いえ、これは……ソルム、でしょうか。ソルムだとしたら、何故こんなところで……」

ひとまず詮索は後にして、手分けしてロイドを捜すべく散開した。
クライサは上流区を暫し捜索した後、別の区画を回ってみることにして城の前の広場を抜ける。道具屋や宿屋が並ぶ通りに繋がる階段を下りようとした時、何やらケンカしているエミルとゼロスにエンカウントして地面に崩れた。

「あ?……んなとこで何してんのよクライサちゃん」

「うるさい話しかけんな」

色々とツッコミたい気持ちをふた呼吸で落ち着けて、改めて二人に向き合う。ちなみにエミルはラタトスクモードだ。
どうも二人は、セレスを肩に担いだロイドを見つけたが、逃げられてしまったらしい。エミルはロイドを見失って悔しげにしていたが、ゼロスは落ち着いた様子でそれを否定した。あれはロイドではない、と。その口論じみたやりとりの最中にクライサが出くわしてしまったというわけだ。

「で、どうすんの、ゼロス?」

「おいおいクライサちゃん、なんでそこで俺さまに聞くんだよ。お前は今、そこのガキンチョどもと行動してるんだろ?」

いいのか?なんて嘲るような笑みを浮かべて問う。
ふむ。確かに王朝跡でゼロスは、ロイドの敵になるなら自分の敵だ、とクライサに言った。クライサも頷いた。だが。

「馬鹿言ってんじゃないよ。セレスが関わってんのに、身内でごたごたしてるわけにいかんでしょ」

「そりゃそうだ」

「だいいち、あたしとアンタの道が分かれるわけないんだから。ロイドが、あたしたちが信じるロイドのままなら、エミルたちがアイツを憎む理由はなくなる。逆にロイドが変わっちゃったなら、アンタたちこそ黙ってないでしょ」

だから、あたしとアンタが敵対することなんか有り得ない。
真っ直ぐ彼を見つめて告げれば、ゼロスは目を見開いて、それからクライサの見慣れた笑みを浮かべた。

「じゃ、屋敷に戻るぜ。わざわざセレスをさらうなら、俺さまのところに連絡があるでしょーよ」

ぽんぽん、とクライサの空色の頭を叩くように撫でる。そして背後のエミルに振り返り、顎をしゃくってみせた。

「そういうわけだ。お前も来いよ。ロイドに会いたいんだろ」

「……ふん」

「ところでクライサちゃん、縮んだ?」

「変わってねーよコンチキショウ!!」

伸びたわって言えりゃよかったがな!と、真顔で目線を合わせてきた男を獅子戦吼でぶっ飛ばした。





ほんっと相変わらずだ!




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