神殿の内部にはまだ氷が残っており、身震いする冷気の中を四人は進んでいった。
しかし、神殿の最奥部にある祭壇に、グラキエスのコアは見当たらない。コアを戻しに来た筈のアクセサリー屋をどこかで追い越してしまったのだろうか。首を傾げるマルタに、クライサは言った。

「騙されたんだと思うよ、あたしたち」

「え?」

「ど、どういうこと?」

「ここにグラキエスのコアはない。戻しになんて来てないんだ」

リーガルが頷く。

「私は世界再生の旅でフラノールのアクセサリー屋の方に世話になったことがある。クライサも懇意にしていたな」

「うん。でも、店で会ったじいさんはあたしたちの知ってる人じゃなかった」

「あの人が偽者……?それじゃあ、グラキエスのコアは……」

リフィルたちが目撃している以上、アクセサリー屋の人間がコアを持ち出したのは間違いないだろう。だが、戻しに来た、というのは明らかに嘘だ。

「だとすれば、狙いはマルタだね」

「ラタトスク・コアを……?」

ならばすぐにここから逃げなければ。リーガルを先頭に歩き出した彼らは、分岐した通路で道を確認する。神殿の出口に向かうには真っ直ぐ進む必要があるのだが、何故かマルタは細い分かれ道のほうへ歩き出してしまった。

「……パパ……!?」

マルタが叫び、エミルとリーガルがそちらを向く。分かれ道のほうに人の姿は見えなかったが、奥から男の低い声がした。

「マルタ……おいで……おまえに謝りたいんだ」

「……パパ!ホント!?私の話、聞いてくれるのね!?」

「マルタ!待って!おかしいよ!」

嬉しそうに言って氷の上を走り出したマルタは、エミルの声に振り返りもしない。クライサは舌打ちした。油断した。ほんの一時と言えど、マルタから目を離してしまった。
エミルたちが後を追おうと駆け出した途端、地響きを立てて大きな岩がいくつも落ちてくる。岩は分厚い壁となり、エミルたちとマルタを完全に遮断してしまった。さらに、後方から見覚えのある揃いの戦闘服を着た兵士たちがバラバラと走ってくる。

「ヴァンガード!?」

「やっぱりアンタたちか」

三人を取り囲んだヴァンガード兵は、一人一人は大した強さではない。しかし、なにぶん数が多すぎて、時間稼ぎされていることを自覚する。未だ絶える様子のない兵を見渡して、クライサは後方に下がった。ここで三人ともがこれ以上足止めを食うのは御免だ。

「ネガティブゲイト!!」

足元に広がる闇色の術式。素早く詠唱を終えたクライサが叫べば、岩の壁に生まれた闇が無遠慮に岩を粉々に砕き道をあけた。

「エミル、リーガル、先行って!」

すぐさま剣を構え、最前線へ躍り出る。名を呼ばれた二人は一時動きを止めたが、すぐに優先事項を導き出して駆けだした。この場にいる敵は、数は多いがクライサの敵ではない。それに対して、一人離れたマルタのラタトスク・コアが奪われれば、彼女は死んでしまう。
分かれ道を行った二人にクライサは笑み、改めて双剣を構えた。





さあ、五秒で片付けようか




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