「歪められし扉、今開かれん」

少女らしい高めの声が、歌うように言葉を紡ぐ。かっと開いた双眸の先には、獣の姿をした魔物の群れ。

「ネガティブゲイト!」

闇の中に囚われた魔物たちは断末魔を上げて、次々に倒れていった。

「……ゼロス」

「んあ?」

「戦えコノヤロウ」

戦闘終了を確認して、双剣を鞘に収めつつ漸く後ろに振り返った。そこにいたのはゼロス・ワイルダー。長い赤毛が目立つ、繁栄世界テセアラの神子だ(何かと軽い性格のせいか、全くそう見えないが)。

「いやー、クライサちゃんの詠唱姿があんまり美しくってさー」

「だったら詠唱中ぐらい守ってよ」

「もちろん、敵が近付いてきたら守ってましたとも」

最近のゼロスはいつもこうだ。
戦闘中、特にクライサが魔術を使おうとしている時、手を止めてこちらばかり見ている。それも、彼の言うように見とれているわけではない。観察するような、目。

「しっかし、なんで魔剣士でもないクライサちゃんが魔術を使えんのかねー」

「人間だよ」

「わーってるって。だから理由を考えてんでしょーよ」

エルフやハーフエルフでないクライサが、何故魔術を使えるのか。理由はわからないが、たぶん異世界から来た人間だからだろう、と本人は全く気にしていない。ゼロスやジーニアスに教わって、多数の術を覚えようとしているぐらいだ。

「なーんでそんなに覚えたがってるわけ?」

「戦う術は多いに越したことはないでしょ」

「ま、そうだけどな…」

前を進む仲間たちに遅れぬよう、歩む足を速める。
もうすぐ日が落ちる。だが視界には既に街の影。野宿はしなくて済みそうだ(本来はレアバードという空飛ぶ機械があるのだが、今は点検中で所有者に返しているらしい)。

「宿についたらさ、また魔術教えてよ」

「えー、俺さま疲れたー」

「ほとんど戦ってない奴がよく言うよ」

教えてくれなきゃ斬る、とばかりに腰に差した双剣の片方に触れると、ゼロスが慌てたように頷いた。

(本当は、ただ、不安なだけ)

錬金術師である自分が、こちらの世界では錬金術を使えないから。だから少しでも、自分の力となる戦法を得たかった。
一歩前に出てそのまま歩き続けるゼロスに、手をとられた。何を言うでもなく、こちらを見るでもなく。不安な気持ちが伝わってしまったのだろう、手を握る彼のそれに微かに力が込められる。
何故だろう。心に、温かさが広がった。





お見通し、なんて、なんだか悔しい



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