「何言ってやがる!お前も見ただろ!?あれはロイドだ!!」

苛立たしげに怒鳴るエミルの言葉はもっともだ。今しがた会ったのは確かにロイドだったし、襲われた人間は彼の仕業だと言った。クライサの言葉を肯定出来る者はいない。彼女が現実を見ることを拒んでいるとしか思えないだろう。
しかし、クライサの発言には根拠があった。

「ロイドの太刀筋じゃないんだよ」

彼女は倒れた人々に目を向ける。その体に見える刀傷は、ロイドの剣によるものではない。クライサはそう言うのだ。

「あぁ?そんなの……」

「あたしはね、アイツに剣を教わってた時期があった」

そんなものがロイドの仕業じゃないという証拠にはならない。彼女の言葉を否定しようとしたエミルの声を遮って、クライサは続ける。
世界再生の旅をしていた頃、双剣士としての経験が浅いクライサはロイドに剣術を指南してもらったことが何度もあった。クラトスの受け売りだという部分はあったが、それでも彼の剣術はクライサにとって学ぶことが多かった。

「師匠の太刀筋を間違うほど、あたしは未熟じゃないよ」

強い光を抱く双眸を向けられて、エミルはふと元に戻った。リーガルが納得したように頷く。

「けど、それは二年も前のことでしょ?クライサの覚えてる剣じゃなくなってる可能性だって……」

「その点は問題ないよ。この間、トリエットで一戦やったから」

「本当か?」

「うん。負けたけどね。剣折られた」

その時に、今のロイドの剣筋は覚えた。一日や二日で変わるものではないから、彼女が違うというなら、この街の人々が受けた傷はロイドが与えたものではないのだろう。

「……じゃあ、どうしてこの人たちはロイドにやられたって言ったの……?」

「それは知らない。とりあえず考えるのは後回しにして、怪我人の救助に行かない?」

そう言ってクライサが首を傾げれば、皆がはっとして彼女を見た。そして笑みを浮かべて頷く。困っている人を放っておけない。そんな性分の彼ららしい反応だ。

一人ずつ手分けして街を回ることにして、クライサは教会を訪れた。建物の前には以前と変わらぬ高台があり、手摺のついたそこからは街全体が見えるようになっている。半年前ーー正確には二年前、その場で起きた事件を思い出したクライサは、羽織った外套の胸元を緩く握った。





それも既に懐かしくて




 17 


[index]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -