「はい、ラスト!」

襲いかかる刃をひらりと避けながら、片刃剣の峰で男の後頭部を打つ。自身を取り囲んだ者たちがみな地面に伏したのを確認して、クライサは上空に目を向けた。
ふわふわと宙に浮かぶ風船のような魔物に乗った少女と目が合った。ヴァンガードの幹部、アリス。自分の連れて来た部下たちが全員倒されたというのに、彼女は上機嫌そうに笑っている。

「ふ〜ん、やっぱり本人みたいね。神子と旅してた頃は長ぁい髪だったって聞いてたから、もしかしたら別人かもって思ってたんだけど」

「別人だったら攻撃しなかった?」

「攻撃しなきゃ、本人かどうかなんてわからないでしょ?」

語尾にハートをつけて喋るな、このドSめ。不敵な笑みにニッコリ笑顔を返されて、大袈裟に肩を上下させたクライサは大きな溜め息をつく。すると宙に浮かぶ彼女の下のほうで、細身の男が呻き声を溢しながら体を起こした。

「ちょっとホーくん!なにアッサリやられちゃってるわけ!?」

「も、申し訳ございません……」

「ほら、ホーくんがそんなザコだから、クライサちゃんってばピンピンしてるじゃない!」

ホーくんと呼ばれた男(名前はホークというらしい)は、両手に装備した大きな爪型の武器を構え直し、こちらを睨む。アリスの言葉に若干気を悪くしたようだが、絶対服従でも誓わされているのか、反論しようという様子は見られない。
ちなみにアリスが『くん』をつけて呼ぶのは、気に入っている者に対してだけなのだとマルタが言っていた。しかし、女に対して『ちゃん』をつけるのは、その真逆なのだと(あーコワいコワい)。

「なに、まだやんの?」

「だって、珍しくリヒターから頼まれちゃったんだもん」

次々に目を覚まして立ち上がり出した者たちを見回して言うと、アリスの口から意外な名が出てきた(だからハートをつけるなっつーに)。

「リヒター?」

「クライサちゃんのこと、必ず始末しろって。リヒターに何かしたの?」

「……そんなのあたしが聞きたい」

そんな明確に殺意を抱かれるようなことしでかしたか、あたし。全く心当たりが無いのだが。

「ま、放置したら絶対ジャマになるからとは言ってたんだけど……自分で動こうとしないのは、やっぱり気になるじゃない?」

可愛らしく笑ったアリスの合図で、体勢を立て直したヴァンガード兵たちが再びクライサを取り囲む。徐々に狭まってくる円をちらりと見てから、上空のアリスへと視線を戻し、言った。





本当に、いいの?




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