トリエットで武器を購入し直し、町を出て次に向かったのはイズールド。また海を渡るならこの村から船に乗らねばならず、エミルとマルタもきっとそこを目指すだろうと考えて決めた目的地だ。とりあえずそこまで行ければ、彼らを追うなり待つなり出来るだろう。
すっかり日も落ち、夜闇の中を一人歩いていたクライサは、ふと人の気配を感じて足を止めた。次いで耳に届いた聞き慣れた音に、今度は駆け出していた。

「くらえ!」

些か大振りな片手剣の横薙ぎに、竜の巨躯が後退る。街道を外れた草原で繰り広げられる戦闘を見つけて、クライサは双剣も抜かぬまま地を蹴った。

「だりゃあ!!」

「!?」

少年の攻撃によろめいた竜にドロップキックを食らわせると、巨体は傾きを増して草の上に倒れ込んだ。それを確認する前にバックステップで距離をとると、すぐさま術の詠唱に入る。薄青の術式が足元に展開する。巨竜がのっそりと体を起こした。

「貫け!フリーズランサー!」

刃を模した氷の礫が竜に襲いかかる。しかしそれだけでは致命傷にはならず、相手は苛立ったように太い腕を振った。弾かれた氷を、また後方に跳んで避ける。視線を向けた先で、剣を握った少年ーーエミルが駆け出した。
クライサは、彼の向こうに見えた赤い長髪の男を一瞥してから、新たに術の詠唱を開始する。男のほうもちらりとこちらを見ただけで、何かを言う様子は無く竜に向かっていった。

男の名が、パルマコスタでエミルたちから聞いた『リヒター』であることを知ったのは、その戦闘が終わった直後のことだ。
エミルはここから少し離れた野営地にマルタらを残して薪を拾いに来たらしく、リヒターが(偶然にしろ故意にしろ)一人になった彼の前に現れてすぐ、魔物と戦闘になった。その真っ只中に通りかかったクライサが乱入し、そして今に至る。
少しの間エミルと合流出来て良かった等と交わしていた彼女は、リヒターの睨むような目に気付いて彼へと視線を向けた。首を傾げて見せても、眼鏡の向こうにある切れ長の目は変化を見せない。

「『クライサ』……再生の神子と行動を共にしていた、クライサ・リミスクか?」

「そうだけど」

些か困惑しがちな声に即答気味に返すと、そうか、と呟いたリヒターは彼女らに背を向けた。そのままエミルに、今日自分と会ったことは他言無用だと告げる。そして去り際、ちらとクライサへと目を向け、

「二度と俺の前に現れるな」

と言って、さっさと歩いて行ってしまった。

「…………は?」

「……クライサ、リヒターさんに何かしたの?」





や、もちろん初対面ですけど?




 09 


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