もちろん腹は空いているのだが、五日間分の食事を並べられても普通の胃袋しか持たないクライサは食べきれないので、とりあえず病み上がりの人間にしんどくない量だけ作ってもらいました。
「しいな、頼んどいた仕事はどうなった?」
おいしかったです。食後の紅茶を飲み干したクライサはカップを置き、成り行きで共に食卓を囲んでいたしいなに目を向けた。
「ああ、アジトの特定だね。ディザイアンの残党どもの」
「そうそう。そのために、わざわざあんな賭けに出たんだから。特定できた?」
バッチリさ、としいなが頷けば、クライサは上機嫌そうに笑う。
「しかし驚いたよ。あんたがまさか、あんなオトリまがいの手を使うなんて」
「んー?だって、あれが一番手っ取り早いんだもん。残党どもはさっさと潰しちゃいたいし」
「……まあ、それはそうだけどさ」
After Story/10
ほんとのところ
クライサがフラノールへ向かう前、しいなに頼んだのは、自分とゼロスがその街にいるという情報を、ディザイアン側にも伝わるよう流すことだった。その情報を耳にすれば、ディザイアンたちは必ず襲撃に来る。ーーそして実際、来た。
「けど、あれは計算外だった。あたしのミスだ」
ディザイアンたちには襲撃に来てもらいたかった。それは本当だ。
けれど、正直、あんなに早く行動に出るとは思わなかった。が、まだこれは想定内。
予想外だったのは、ゼロスの反応だ。
ディザイアンたちが攻撃を仕掛けやすいよう、彼の反応が鈍るだろうフラノールを作戦の舞台にしたのはクライサだ。だがまさか、反応が遅れるどころか、あれだけの殺気に全く気がつかないとは。
(ナメてたんだ。アイツの記憶を。……アイツの傷を)
敵の襲撃を誘うだけの筈だったのに、彼の命を脅かしてしまった。あと少し、自分が駆け出すのが遅ければ、もしかしたらゼロスは死んでいたかもしれない。
「しかし無茶するよ。今回は運良く助かったけど、あんただって死んでたかもしれないじゃないか」
そりゃ確かに無茶だったさ。けれど、言い出しっぺは自分だから。
「それにあたしは、あいつの護衛役だから。あいつに何かあったら、あたしの面子に関わるでしょ」
当たり前のようにそう答えると、しいなは数度まばたきを繰り返し、それから何故か深々と溜め息を吐いた。
え、何その反応