夢を見た。

『っはよーございまーす』

扉を開けると、迎えてくれるのは見慣れた顔ぶれ。あたしはそれに笑顔を返して、部屋の中へと進んでいく。辿り着いた自席、机の上には山と積まれた書類。これも見慣れたものだ。やれやれと溜め息をつきつつ、机上にあるかないかのスペースに飴玉を入れた瓶を置く(書類処理のお供。いつも持参してくるのだ)。

『氷の』

椅子を引いて座ろうとしたところで、耳慣れた声が一番奥の席からかけられた。はいはい、とその席の前に歩いていくと、我らが司令官殿の手には何らかの書類。嫌な予感がしつつも読み上げられる文章を聞けば、予想通り任務を言い渡されることとなった。あの山が見えないのか、人でなし。当然のように異論は認められず、早速任務につけと告げられたので肩を落とし、渋々扉へ向かう。これは早くも残業決定コースかもしれない。

『クライサ!』

手を伸ばすより早く扉が開かれ、驚く間もなく二人の人物が顔を出した。そういえば長期滞在中だと言っていたっけ。こんな早い時間から珍しいと首を捻れば、少年は理由を示すように上司を指差す。弟が呆れ気味に言うには、宿泊中のホテルに突然呼び出しの電話があったらしい。どうせ大した用事ではないだろうにと溜め息をつけば、鎧の彼も肩を落とす。視線の先では少年がぎゃあぎゃあと噛みついては、上司の正論の皮を被った屁理屈にバッサリと切られている。これもいつもの光景だ。

(……ああ、そうだった)

いつものこと。何も特別なことはなく、いつも同じように過ぎていく時間。永遠に続くのでは、とすら思ったことのある、変わりない日常。
それがこんなにも、恋しいなんて。

(あたしは、帰らなきゃならないんだった)





After Story/09
目が覚めて






視界に映ったのは、最近漸く見慣れてきた天井だった。

(……あたしの部屋だ。ゼロスの家の)

ということは、ここはメルトキオか。ぼんやりとした頭のままそれだけを判断し、ゆっくりと起き上がった。確認のために室内を見渡せば、豪華ながらシンプルな調度品で彩られた広い部屋は、やはりゼロスから与えられた部屋に間違いなかった。

「クライサ!目が覚めたんだね!」

その声に扉のほうへ目を向けると、ちょうどしいなが入ってくるところだった。良かった、と笑う彼女は背後にいたセバスチャンに飲み物を頼み、室内に足を踏み入れる。

「どこか調子悪いところとかあるかい?」

「んー、特にはないかな。ちょっとダルいけど」

「そりゃ仕方ないよ。あれだけの出血だったんだし、何しろ五日間も起きなかったんだから」

「五日間?」

そんなに眠っていたのか。そりゃ体も鈍るわ。

「あんたが起きたんなら、とりあえず報告から始めようかね」

「……」

「クライサ?どうかしたのかい?」

「いや、五日間分ご飯食べ損ねちゃったなぁって」

「……すぐ食事準備してくれるよう頼んでくるよ」





とりあえず、腹ごしらえから




 AS-09 


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