「ゼロス!!」

名を呼ばれてまず気付いたのは、自分に向けられた殺意だった。
あまりにも明確だったそれに、どうして今の今まで気付かなかったのか。後悔する間もなく、発動した魔術による刃が向かってくる。その向こう側にはニヤリと笑う人影。噂のディザイアンの残党だということはすぐにわかった。
そんなことに意識が行っている時点で、自身への攻撃を防げないことは確実だった。動揺、していたのかもしれない。
その光景は、幼い自分が母を亡くしたあの時と、あまりにも似すぎていたから。





After Story/06
重なる記憶






魔術による攻撃を受けたのは自分ではなかった。自分を狙った筈のそれは、側にいた母を巻き込んで殺した。
自身に覆い被さるようにして倒れた、血にまみれた母の最後の言葉は忘れられない。

『おまえなんか生まなければよかった』

自分が呪われるのは当然なのだ。自分さえ生まなければ、母があの時死ぬことはなかった。自分が生まれることがなければ、父も母も、セレスもその母も、運命がねじ曲げられることはなかったかもしれない。母は愛した男と共に生きられたかもしれない。父とセレスの母が引き裂かれることもなかったかもしれない。セレスが神子になれたかもしれない。
どうしようもない可能性ばかり考えて、意味の無い後悔ばかりしている。今更どれだけ悔いようと、何も変わりはしないのに。自分が殺した命も、見捨てた命も、戻って来はしないのに。

『世界のために、な』

だから今、混乱する世界のために、神子である自分に出来うる限りのことをしようとしているのは、償いなのかもしれない。許してもらおうとは思っていない、許してもらえる筈がない。ただ、自分の心を納得させるためだけの『償い』だ。背負ったものが重すぎてたまらなかったから、少しでも軽くなるーー軽くなったように思える道を選んだ。それが正しいかどうかなんてわからない。わからない、けれど。

『そういうのに正しいも間違いもないよ。アンタの人生、アンタが決めな』

アンタが決めた道が、いつだって正解だから。気休めでなく、はっきりと言い切ったクライサの笑顔に、安心した。救われた気がした。

だから、思い違いをした。



白い景色に散った赤を、他人事のように見ていた。衝撃に、自然と体が後ろへと傾ぐ。背中に触れる雪。布越しに伝わる冷たさ。けれど腹部から下は不思議と温かくて目を瞬かせた。

「……え」

深々と肌を抉った傷からは絶えず血が溢れ、雪の上に落ちては白を浸食する。その顔が血の気を失っていくのを、ゼロスは呆然と見た。

「……クライサ、ちゃん……?」





ほら、また繰り返す





 
 AS-06 


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