「御許に仕えることを許したまえ」
剣を振るう少年の向こうで、金髪の少女が術の詠唱を始めた。周囲に羽を散らす彼女を穏やかな光が照らす。敵の数が多く、さばき切れないかもしれないと少年が舌打ちするのが見え、もう一人の少女が駆け出した。しかし
「響けそうでん……あっ」
間違えちゃった、と金髪の彼女が笑うのを見て、少女が足を止めた。詠唱の失敗は魔術発動の失敗を意味する。だが彼女の場合は
「……あれ?」
能力上昇効果のある光が少年たちを包み、同時に降り出した無数の光の雨が敵を貫く。少女が首を傾げ、少年が呆然としている間に全ての敵が倒れてしまった。
(……相変わらずえげつない威力だこと)
彼女の秘奥義の発動を一部始終見守ることとなったクライサは、苦笑しながら彼らに歩み寄っていった。
After Story/04
百発百中の予感
エクスフィア回収の旅に出たロイドとコレットは、既にディザイアンの残党による襲撃を何度か受けてきたらしい。
「クライサもか?」
「まぁね。けど、多分アンタたちほどじゃないと思うよ」
コレットは世界再生を行った神子として、ロイドは特殊なエクスフィアを持つ者として、ディザイアン中に名が知られていた筈だ。クライサも旅に同行した者として知られてはいるが、彼らほどではない。
それに彼らはレアバード移動のクライサと違って、ノイシュを連れているためかほとんど歩きで旅をしている。ディザイアンにとっては非常に狙いやすい相手だろう。ま、この二人がそう簡単にやられるとは思えないが。
「クライサは何か用事があって来てたの?」
「うん。世界の街を見て回ってる途中なんだけど、アルテスタにエクスフィア見てもらいにね」
「エクスフィア?」
ロイドに頷きを返す。アイオニトスの寄生(なのだろうか)を受ける自分は、エクスフィアの不調が直接命に関わる。今こうして平然と立っていられるのは、このエクスフィアのおかげなのだ。
「二人は今後も旅を続けるの?」
「ああ、そのつもりだ」
「そっか……じゃ、ディザイアンもろもろに気をつけてね。特にロイド」
アンタがいないとっていうかエターナルソードがないと、あたしは元の世界に帰れないんだから。そう告げてやれば、なんですぐに帰らないんだとロイドに尋ねられた。確かに、いつまでも滞在してないでさっさと帰れ、とは自分が逆の立場でも多分言うが。
「……タイミング逃してんの」
「え?」
「ま、近いうちに帰るよ。とにかく道中気をつけてよね!」
「ああ、そっちもな」
「またね、クライサ!」
ノイシュと共に歩いていった二人を見送ったクライサは、先の発言を思い出して空を見上げた。近いうちに帰る。ディザイアンの残党とやらを他の仲間たちに任せて、帰る?それでもいい。彼らなら解決出来ると信じられるから。
「……でも」
なにか嫌な予感がするんだ