分厚い本を閉じると小さな音が鳴る。それを机上に積み上げた本の山の脇に置いて、クライサは肩から力を抜いた。凭れた椅子が軋んだ音を立てるが、静かな空間でも気にならない程の大きさだったことに安堵する。
一息ついて、すぐに立ち上がった。山にした本を抱え、元あった場所に戻すべく棚のほうへと歩き出す。
(予定よりだいぶ時間かかっちゃったなぁ……)
この世界の言語は、クライサが使っていたものと違う。不思議なことに会話に困ることは無かったのだが、文字の読み書きにおいてはそう都合良くはいかなかった。旅の合間にリフィルやジーニアスたちから読み書きを教わって、些か難解な本でも最後まで読めるようになったのは最近のことだ。
あれだけの本、普段なら二時間で読み終えていた筈なのに、今回は倍もかかってしまった。自由に出来る時間はそう多くないというのに。やれやれと溜め息をつきつつ、最後の一冊を棚に戻した。
After Story/02
それも一つの信頼関係
サイバックが好きだ。
この世界で一番大きな図書館には、クライサ好みの蔵書がたくさんある。時折暇が出来ると、わざわざここまでやってきて読書に勤しむことにしているのだ。
ただ、この街では時々、メルトキオとは少し違った視線を感じることがある。メルトキオでは、シルヴァラント人でもテセアラ人でもない人間が珍しいのか、貴族連中から奇異の目で見られることが多かった。
しかしサイバックでは違う。奇異のものでも、また敵意を感じるものでもなく、悪意の無い視線なのだ。そういえば、学生らしき人間と目が合った時、一瞬驚いたような顔をしたのが何人かいた。
こちらを狙っているわけではないのならと半ば諦めているからまぁいいが(視線を集めることには慣れてるし)。
「クライサ!」
「……ジーニアス?」
不意に名を呼ばれたので振り返ると、銀髪の子どもが駆けてくるところだった。それが旅を共にしたハーフエルフの少年だと気付いて呼び返せば、その顔が嬉しそうに綻ぶ。
「久しぶりだね。一人なの?リフィルは?」
「ちょっと別行動してて、姉さんとはここで合流する予定なんだ。クライサは?」
「あたしは一応お仕事」
仕事?と首を傾げられた。ついでになんだか胡散臭そうな目で見られた。少しショックだ。
「大したことじゃないけどね。各街の様子を見て回ってるんだ。何か変化は無いかってね」
「ふーん……ゼロスも一緒なの?」
「ううん。アイツは別の街回ってる筈だよ」
「……え、別行動なの?」
「うん」
「クライサって、ゼロスの護衛役なんじゃなかったっけ……?」
「アイツだって自分の身ぐらい自分で守れるでしょ」
「……」
護衛の意味全く無し