「ミトスのやつ、ほんと趣味悪いなぁ」

見覚えのあるーー忘れる筈などあるわけがない、五人の男たちの姿。横に一列に並んだ彼らの背後に、同じく白衣姿の女の姿を見つけて、クライサは顔を顰めた。

「キリーにベルクライン、マックス、ヨーク、スターロン。ご丁寧に馬鹿姉まで……ご苦労なこったね」

これは幻覚だ。彼らがここにいる筈はないし、そもそも男たち五人は自分が殺したのだ。今更こんなものに揺さぶられたりはしない。
背後に気配を感じて振り返ると、今まさにぶん殴ってやろうと思っていた人物がそこにいた。

「こんなの見せてどうしようっての?」

「それは君の心の弱さだよ」

ミトスだ。おそらくは実体は無いのだろう、映像のみのような姿で浮いている。

「心の弱さ、ねぇ」

「そう。いくら強がっていても、心の弱さは隠せない。その証拠が、今君の前にいる彼らだよ」

「ふーん」

男たちに向き直った。恨みがましい目でこちらを見つめている彼らは、確かにクライサの心の弱さと呼べるかもしれない。だが。

「それで?」

「え?」

「これを見せてどうしたいって言うの?」

予想外の反応だったのだろう、何も返せずにいるミトスに背を向けたまま、クライサは双剣を抜いた。
彼らを死なせてしまったことを悔いているのは事実だ。しかし恨まれて当然だということは知っているし、それが辛いと思ったことは無い。たとえ彼らに呪いのような言葉を浴びせかけられたとしても、それで心を痛めることも無いだろう。

「こんな光景、毎日のように夢で見せられてるからね。とっくに慣れちゃったよ」

握った剣を振り抜き、生まれた衝撃波で男たちを吹き飛ばした。倒れた彼らは灰になるようにして消えていく。一つ息をついて、鞘に剣を収めた。

「これがあたしの心の弱さだって言うのなら、これは乗り越えるものじゃない。背負うものだ」

弱さがあるから強くもなれる。闇を知っているから光を求められる。光ばかりの人生なんて、面白味が無いじゃないか。

「心が弱いことは悪いことじゃないよ。……悪いのは、心の弱さを言い訳にすることだ」

アンタみたいにね。
振り向きざま、少年を鋭く睨み付ける。ミトスは一瞬顔を歪めただけで、何も言わずに消えてしまった。





立ち止まってなんか、いられない




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