「クライサちゃん、フラノールで聞いたよな?なんで雪が嫌いなのかって」

「?……ああ、その時ははぐらかされたけどね」

「理由はな、俺の母親が死んだのが雪の中だったから」

言葉を失った。彼女から目を逸らして前を見たゼロスは、クライサの反応を予想していたらしくそのまま続ける。淡々と。

「真っ白な雪。真っ赤な血。ガキの俺が見たその光景は、今でもトラウマになってる」

幼い神子。雪の中。彼を狙った筈の魔術。巻き込まれた母親。生きている自分。倒れた身体。生まなければよかった。呪いの言葉。赤に染まる白。赤。赤。赤。

「俺を殺そうとしたのは、セレスの母親だった」

ゼロスを亡き者にし、娘を神子にしようとした母親の思い余った行動だった。彼女はその後処刑され、何も知らないセレスは修道院に軟禁されることとなった。

「……で、その俺さまを憎んでしょうがない母親が生前にくれたのが、その指輪だったってわけ。何の時に貰ったのかは忘れちまったんだけどな」

「ふーん…」

指先で摘まんだそれを目線まで持ち上げ、鑑定するように眺める。何も特別なところのない、ただの指輪。しかしゼロスにとっては特別なものなのだ。いい意味か悪い意味かは別として。

「そんな曰く付きのものだったんだね」

「曰くって……ま、確かにそれにはいい思い出は無いわな。けど、なんとなく捨てられなくてよ」

「んで、扱いに困ってあたしに押し付けたと」

「おいおい、勘違いしないでくれよー?俺さま『持っててくれ』って言っただけで『もらってくれ』って言った覚えは無いぜ?」

からかうような口調に、わかってるよと笑みで返す。先を促すように視線を向けると、ゼロスは苦く笑った。

「…あー…そんないい記憶の無いものでも、さ。クライサちゃんが持っててくれれば、何か変わる気がしたんだよ」

将来その指輪を見た時に思い出す姿。目を背け続けていたことに向き合う覚悟。きっかけが欲しくて、持っていてくれと頼んだのだ。
クライサは暫しの間彼を見つめ、そしてふっと笑った。しょうがないなぁと上着の胸ポケットにそれを仕舞う。口調に反して笑顔は穏やかだ。

「暫くの間肌身離さず持っててくれたら、もしかしたらクライサちゃんの匂いが移ったりするかもな」

「飛んでけデリス・カーラーンまで」

「投げないで!俺が悪かったから捨てないでーッ!!」





向き合うきっかけ




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