「ゼロスはどうすんの?この旅が終わったら」

「俺さま?」

そちらに顔を向けて尋ねれば、彼はんーと唸りながら腕を組む。

「神子制度が完全廃止になるまではこの権力をフルに使うかな。もちろん世界のために、な」

メルトキオを中心に、世界の混乱を抑える。テセアラ中に名の知れ渡っている彼がやろうと思えば、難しくともきっと可能だろう。
またハーフエルフに対する差別も緩和させ、いつか完全に無くなるよう努力したいと言う。長きに渡り続いていたものだ。簡単ではないだろうし、反発する者が出てくる可能性も低くない。

「そういう奴に命を狙われることもあるかもなぁ……あ、じゃあクライサちゃん、俺さまの護衛やってくれよ」

「それもいいね」

「……え?」

ふざけたような口調で言った彼は、浮かべていた笑みを潜ませ固まった。マジで?なんて疑い全開の問いをされて笑った。

「何その反応。本気にされちゃ困るっての?」

「いやいや逆、逆。……むしろこっちこそ本気にしちゃっていいの?」

また疑わしそうに問われた。どれだけ信用ないんだ。

「住み込みで一日三食午後のティータイム付き、ふかふかベッドのある部屋がいいな。あ、自由時間は多めでよろしく」

「へ?え?」

「雇われてやるって言ってんの。寝るとこと食事提供してくれるなら無給でいいよ。街の外で魔物倒して稼ぐから」

「あー、えーと」

「何か不満が?」

「……いえ、よろしくお願いしマス」

「こちらこそ」

二人揃って頭を下げて、顔を上げると珍しく赤面したゼロスの顔が目の前にあってクライサは笑った。
もちろん、彼の護衛のためだけに残るわけではない。世界再生の立役者として、メルトキオにいながらも出来ることは山とあるだろう。ゼロスも各街に赴くことはあるだろうから、その時には彼について世界の状態を見るのもいい。彼のそばにいれば、きっとバラバラになってしまうだろう仲間たちとも連絡を取り合うことが出来そうだ。
あまり長々と居座っては帰りづらくなりそうだから、ひとまず落ち着く頃まで。そこから先のことは、この世界の者がやるべきことだ。

「……あ、じゃあ」

「ん?」

「クライサちゃんが元の世界に帰るまで、これ持っててくれよ」

そう言って差し出されたのは、一つの指輪だった。貴族がこれ見よがしにつけているような派手で豪奢なものではなく、シンプルで上品なもの。小さな青い石は、彼の眼を思わせるような色をしている。これはどうしたんだと尋ねれば。

「昔、母親から貰ったんだよ。もしかしたら、最初で最後のプレゼント……だったのかもな」





世界の未来




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