『エターナルソードの力があれば、お前は元の世界に帰れるだろう』

ほんの十数分前と同じように、今度は森を出るために木の上を移動する。枝を蹴り、葉を避けながら思い出すのは先のクラトスの言葉だ。

『オリジンとの契約に成功しエターナルソードを手に入れたら、早々に自分の世界に帰るがいい』

『何それ。厄介払い?』

『世界のつくりを変えるということは、お前が想像している以上の大仕事だ。干渉者であるお前が最後まで付き合う必要は無い』

命懸けの旅にこれ以上付き合う必要は無い。つまりそう言いたいらしい。
確かに、この世界に永住する気は無いし、元の世界に帰ることを忘れていたわけでもない。だが。

『中途半端って嫌いなんだよね。今回のことにはあたしもそれなりに関わらせてもらったし、何より、世界が変わる様を見たいよ』

この世界のことはこの世界の人々に任せるべきだろうから、自分がやらねばという意識は無い。自分がいなければ世界統合は出来ないだろうとも思っていない。ただ、ロイドたちが望んだ世界を見てみたいと思った。
森に入った時と同様に、見張りの目を盗んで村に入る。建物から離れた辺りの開けた場所に出て、一息をついた。

「世界が変わる……か」

元々一つだった世界はミトスによって二つに分けられ、また一つに戻されようとしている。二つの世界がマナを搾取し合うことも、神子が重い宿命を背負う必要も無くなるだろう。
しかし、その行為がもたらすのは世界の平和だけではない。何も知らない人々は混乱するだろう。互いの世界を受け入れられない者も出てくるかもしれない。統合後の世界には、大きな不安がいくつもある。

「……さっさと帰っても後味悪そうだな。暫く残ってみんなのサポートしてくかなぁ」

「お、いーこと聞いた」

聞き慣れた声に振り返ると、ゼロスが歩いてくるところだった。大きな独り言はバッチリ聞かれていたらしい。彼はクライサの脇を通り過ぎ、そのまま歩みを進めてベンチに腰を下ろした。

「なんでいんの」

「ひでぇ言いぐさだなぁ。俺さまは散歩してただけ。どっかの天使サマと密会してたクライサちゃんとは違ってな」

彼が隣を叩く動作をしたため、バレてら、と目を逸らして舌を出してから少女は歩き出した。示された場所に腰を下ろして空を見上げる。闇に包まれたそこには、先程と変わらない月が浮かんでいた。




もう一人の魔剣士




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