封印を解除する方法は、クラトスを殺すか、彼のマナを封印に注入することの二つのみだ。前者は言わずもがな、後者の場合は体内マナのほとんどを失うこととなるため行えば命に関わる。『クラトスを倒すこと』はすなわち、『クラトスを殺すこと』なのだ。

「世界がかかってる以上、ロイドはアンタを倒すだろうね」

父を越える、と言えば聞こえはいいかもしれない。だが彼に強いられているのは『実の父親を殺すこと』だ。後者の方法を選んで実際に手を汚さずとも、結局は同じことである。
世界のために、それが必要不可欠だと言うならば、彼はやるだろう。唇を噛み締め、しかし目を逸らすことなく、彼は剣を握るだろう。

「けどね、それを『仕方ない』で済ませるなんて許さない」

世界のため、彼のために死ぬ。それがクラトスの選んだ道なのかもしれない。最終的な決着は息子に委ねようと、より可能性の高い未来を覚悟せずにはいられないのかもしれない。『仕方ない』から殺す、『仕方ない』から死ぬ。たとえ全力でぶつかり合った結果迎える終わりだとしても、誰一人心から納得出来る者などいないとわかっているのに。

「……私は」

「長く生き過ぎた、なんて言い訳は聞かないよ」

まだ終わっていない。最後の決着を誰かに任せて自分は休もうなんて、虫が良いにも程がある。

「人生ってのは何が起こるかわかんないから楽しいんだ。もしかしたら、アンタが死ななくてもオリジンと契約することが出来るかもしれない」

「……」

「ま、諦めんなってことだね」

「諦めてなどいない。覚悟を決めただけだ」

「言ったでしょ?死の覚悟を決めた顔してたらぶん殴るって」

クラトスは顔を上げ、こちらを見ている少女と目を合わせた。彼を『卑怯者』と称しておきながら、その目は酷く優しかった。

「あたしが言う『死の覚悟を決めた』ってのは、『生きることを諦めた』ってことだから。まだ迷ってる奴にはそんな顔出来ないよ」

「……迷ってなど…」

「迷ってない奴は息子に決着を委ねるなんてしないと思うけど?」

責めるような口調で、しかし穏やかな表情で言う彼女に、クラトスは何も返せなかった。少女は木の幹から背を離し、彼に背を向ける。

「ま、明日は本気で戦えばいいよ。それを覆す必要は無い。もしかしたら奇跡が起こるかもしれないしね」

「奇跡、か」

「案外捨てたもんじゃないよ、奇跡ってやつも。何しろあたしがここにいるのも、多分奇跡の連続のおかげだから」

科学者らしくないけどね、と笑って歩み出した少女は、クラトスに呼び止められて振り返った。





ここにいる奇跡




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