ユグドラシルを倒した後に現れたクラトスは、『オリジンの封印の前で待つ』と言い残して去っていった。
エターナルソードを使うには、まず精霊オリジンと契約しなければならない。しかしオリジンと契約するには、それを封じているクラトスを倒さねばならない。その決着の場を、彼は封印の前と指定したのだ。

「そんなわけで、あたしたちはエルフの村、ヘイムダールに来ています。何故かと言うと、オリジンの封印があるというトレントの森には、この村からしか入れないからです」

ありもしないカメラ目線で説明してみせたものの、誰からのツッコミも入らない静寂に溜め息をついた。むなしい。やっぱりゼロスの一人でも連れてくるべきだったろうか。
靴の底に触れたばかりの枝を蹴り、空中へと躍らせた体の落下に合わせて足を伸ばし、新たな枝に着地する。鬱蒼と生えた木々の間を縫うように、枝から枝へと飛び移りながら、目的のものをさがした。

救いの塔からヘイムダールへと移動して、今夜はここで休むことにした。仲間たちは各々村の中で自由に過ごしていることだろう。ハーフエルフであるジーニアスとリフィルも、ロイドの説得によって村に入ることを許されたから、彼らも休んでいる頃だろうか。
森には静寂が落ちている。気配はあれど、魔物の鳴き声は聞こえてこない。夜空には鮮やかな月が浮かんでいる。

「こんな夜には月見酒なんてどうです?おにーさん」

木の上で足を止め、空を見上げて言った。視線を感じて顔を向ければ、別の木の根元に腰を下ろしたままこちらを見た男と目が合った。表情を変えない彼に、ニヤリと笑う。
明るい茶色の髪に群青色の衣服、あの似合わぬ青い羽は今は見当たらず、携えた剣を抜く素振りはない。クルシスの天使。ロイドの実父。

「異世界の住人か。一人で何をしに来た」

「卑怯者の顔を見に」

即答気味に返せば、相手の身が微かに強張った。視線に睨むような気配が含まれる。わざとらしく肩を竦め、枝を蹴って地面に下り立った。

「ミトスは裏切れないけど息子は死なせたくない。手助けはするけど味方にはならない。どっちつかずのままここまできておいて、決着も息子の手に委ねようってんだ。卑怯者に違いないでしょ?」

彼から少し離れた位置にある木の幹に背を預け、押し黙る男に目を向ける。返答は無い。元より期待はしていない。

「ま、別にアンタを責めに来たわけではないんだけどさ」

「……ならば、何をしに来た」

「だから顔見に来たんだって。……死を覚悟した顔でもしてたら、ぶん殴ってやろうと思って、さ」





月の下の密会




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