見張りの天使を騙すためとはいえ、先程の戦闘は本当に楽しかった。事前に打ち合わせをしていたわけではないから、相手がどのような攻撃をしてくるかわからないし、ゼロスが本当に裏切るつもりだったりクライサが意図に気付いていなかったり、という可能性もあった。言葉にせずとも互いの考えがわかったのは、たとえ剣に殺意を込めていようと、双方急所を狙った攻撃を仕掛けなかったからだった。

「で、クルシス側についたフリしてまでアンタがしようとしてたことって何?」

何か思惑があるんでしょ、と問えば、ゼロスはクライサを指差す。その指先が、自分ではなく自分の耳に向けられていると気付いて、左耳に触れた。

「アイオニトス?」

「そ。デリス・カーラーンにのみ存在すると言われている鉱石で、所持していると人間でもマナを扱えるようになる」

そのアイオニトスを、ゼロスは仕事が済めば貰えるという話になっていたのだと言う。そして、床に刺さったままのエターナルソードを指差した。精霊オリジンがハーフエルフであるミトスのために作り出したというその剣は、人間には扱えない。

「なるほど。アイオニトスがあれば、ロイドでもあれを扱えるってわけね」

「そーそー。そういうこと」

「だったらあたしに言えば良かったじゃん。このピアスもアイオニトスなんだから」

「そのピアス譲ってくれって?んなこと言ったらクライサちゃん、確実に一発は殴るでしょーよ」

「うんにゃ、とりあえず基本攻撃三段→裂空斬→魔神剣・双牙→獅吼旋破を食らわせるね。ちなみにスーパーブラストつけてないのは優しさだよ」

「だったら余計、そんな死刑宣告自分から言い出せるわけねーって」

コレットの救出に向かったロイドたちは、今頃張られた罠に苦戦している筈だ。彼らが窮地に陥っている可能性がある以上、いつまでもここでのんびりしているわけにはいかない。差し伸べられた手をとり、クライサは立ち上がる。

「あ」

「ん?」

手を放すと同時に少女が声を上げたので、ゼロスは首を傾げた。こちらを見上げてくるクライサと目を合わせたままでいると、

「ぶほぁ!?」

頬に右ストレートを食らって沈んだ。先程の戦闘時の双剣より力が込もってた気がする。並の攻撃力じゃない。

「わざと刺されたとはいえ、痛かったのは事実だから。仕返しね」

殴った本人はと言えば、何食わぬ顔ですたすたとワープ装置に向かって歩いている。倒れた体を起こし、まだ痛む頬を左手で擦りながら、ゼロスは抱いていた疑問をその背に投げ掛けた。





振り返った彼女は、笑っていた




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