ずるりと剣を抜く。びちゃりと血の塊が落ちた。からんと音を立て、二本の剣が跳ねる。傾いた身体は、その場を動かなかった男にゆっくりと凭れかかった。ゼロスの右手から剣が滑り落ちる。足の横に突き刺さったそれからは、滴る赤が筋を作って床に落ちた。
力を失った身体が崩れる。ゼロスはそれを追うように膝をつき、華奢な肩を抱いて倒れさせまいと支えた。自身の手や、衣服が濡れるのも構わず。赤く染まってなお澄み続ける空色を、ただ胸に抱いた。

ひゅうひゅうとか細い吐息を、少々荒くなった自身の息遣いが掻き消し、静かな空間に響き渡った。他に音は無い。耳障りな呼吸を幾らか数えたところで漸く、彼の耳に新たな音が届いた。

「……行った?」

それは第三者の声などではなく、右腕で抱えた少女のものだった。けっして弱くない声に、しかしゼロスは驚きを見せない。ああと返して、漸く身を離した。

「ったた…覚悟しててもやっぱ痛いね」

男の腕を離れ床に座り直すと、クライサは赤く染まった左肩に右手を置いた。とたん走る痛みに眉を寄せ、苦笑混じりに言う。骨と骨の間を貫いたのが幅広の剣だったため、傷口は大きく出血もかなりのものだ。

「ったく、ほんっと無茶するよな、クライサちゃん」

ゼロスは少女の肩に何度かファーストエイドをかけると、最後にヒールストリームと唱えて互いの体力を回復した。血の跡はそのままだが、背中側まで剣が貫いていた傷が塞がると、クライサは乱暴に肩を回す。異常が無いのを確認し、顔を上げて礼を言った。

「信用されてないんだね。見張り用意するなんてさ」

「ま、現にロイドたちを行かせたわけだしな。信用されなくても仕方ねーんじゃねぇの?」

二人揃って頭上高くを見上げた。先程までそこにいた天使の姿は、今は無い。クライサが刺されて動きを止めた時に、勝敗は決したと判断して去ったようだった。
ユグドラシルかプロネーマか、どちらの指示かは知らないが、クルシスもゼロスの裏切りを考えていないわけではなかった。彼がちゃんと邪魔者を始末するのかを見るため、見張り用の天使を残していったのだろう。
彼が見張られていることに気付いていたのはゼロス本人とクライサだけだった。そして彼の意図にも気付いたクライサは、ロイドたちを行かせて自らはこの場に残ったのだ。

「ほーんと、クライサちゃんが察し良くて助かったぜ。俺さま愛されてんだなー」

「馬鹿言わないでよ。ま、本当にアンタが裏切ってたら、スーパーブラストつけた上にオーバーリミッツしてフルボッコにしてから秘奥義食らわせてたけどね」

「(思い止まって本当に良かった…!!)」





処刑一歩手前でした




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