軌道の読めない彼の剣術は厄介だが、パターンさえ掴んでしまえば防ぐのは難しくなかった。捻りを加え、まるで鞭のように向かってきた刃を逆手に持った右の剣で受け流す。左手の剣での反撃は、彼の盾によって防がれた。
少し距離を開けば、発動の早い魔術を剣技の合間に混ぜてくる。ああ全く、敵に回すと厄介な相手だ。

「へぇ、考え事なんて余裕あるんだな」

「くっ…」

一瞬でも油断すれば、容赦の無い斬撃が襲ってくる。長く鋭い連携を凌ぐと同時に反撃に出るが、それを察知したゼロスはすぐさま後方に退いた。空を切った剣先に舌打ちする。
斬り結び始めてどれくらい経っただろうか。実際はまだ十分も経っていないのだろうが、時間のわからないこの空間では、酷く長く感じられた。

「……ねぇ、ゼロス」

「ん?」

「どんな気持ちなの?裏切り者になるって」

答えは無い。襲ってきた突きを十分に引き付けたところで避け、頬に傷を作りながら双剣を引く。勢いをつけて盾の側面を叩くと、左手を弾かれたゼロスが体勢を崩した。焦る男に笑みを見せつけ、懐に入り込む。握っていた剣ごと手を足元につき、倒立をするようにして振り上げた足で相手の顎を蹴り上げた。ふらつきながら後退る男に、倒立したまま体を捻り、追撃の踵落としを繰り出す。間一髪でそれを避け、ゼロスは後方に跳びながら詠唱を始めた。

「輝く御名の下…」

地に足をつけ、クライサが体勢を立て直した時には既に遅かった。ほとんど術を組み終えた彼は笑みを浮かべており、ジャッジメント、と術名を口にすると背筋が粟立った。頭上から光の雨が降ってくる。しかし、クライサもまた、笑っていた。

(楽しいなぁ、もう)

攻撃の軌道を読んでいるわけではない。身に感じる、死の恐怖を察知してーー謂わば本能だけで、降り注ぐ光の凶器を避けていく。最後の一撃を右肩を掠らせながらも避けた時、左前方から向かってきた殺気に反射的に剣を構えた。
地を走る衝撃波を防ぎ、お返しとばかりに同じ技を二倍にして返す。それを左に跳んで避け、互いの剣の間合いに入ると、ゼロスは右足を強く踏み込んだ。鋭い切っ先が突き出される。

(楽しかったのに……残念だな)

防御のために持ち上げた剣は、しかし不自然に止まった。相手を見据えて笑った少女は、それを避けない。肉を貫き、骨を擦る音が響く。散った赤が服を、足元を、そして目を見開いたゼロスの顔を汚した。





赤と青のコントラスト




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