アルテスタの容態は安定し、今はミズホの民がそばについている。翌朝、フラノールに戻ってきたしいなたちからの報告に、ひとまず安堵した。
安堵ついでに、今度はこっちから仕掛けてやろうとロイドが言い出した。毎度先手を打たれているから、今回はこちらからウィルガイアに乗り込んでやろうと言うのだ。
皆がその提案に乗ったことにより、向かったのは救いの塔。ユアンの助けで無事中に入れたものの、さてここからどうしたものやら。

「こんなこともあろうかと、俺さま、前に来た時に仕掛けをしといたのよ」

ゼロスが駆け出し、ワープ装置付近で振り返る。彼に名を呼ばれたコレットが走り寄る。何をするのか見守りながらその後に続いたロイドたちの前で、突然現れた天使たちがコレットを囲んだ。

「よくやったのう、神子ゼロスよ」

ゼロスとコレットのそばに現れた厚化粧ババ…もとい五聖刃のトップであるプロネーマの言葉に、ロイドたちは目を瞠った。視線の先にいるゼロスは、笑っている。
彼の裏切りは明白だった。ロイドたちは信じられないと…信じたくないと首を振るが、事実に変化は無い。ワープ装置の上にいたプロネーマがコレットを連れて去ると、彼らを取り囲んでいた天使たちも消え、後を任されたゼロスが剣を抜いた。

ゼロスは神子を辞めたがっていた。ユグドラシルにつけばそれが叶うからと、仲間を裏切った。クルシスとロイドたち、レネゲードを天秤にかけた結果、最後に選んだのはクルシスだった。

「俺さまを倒さなきゃ、コレットちゃんは助けられねーぜ?」

夕焼け色の羽を背負い、剣をかつての仲間たちへ向ける。動揺するロイドたちは、武器を構えはするものの、攻撃に出ることなんて出来なかった。
ニヤリと笑ったゼロスが剣を振るう。殺意の乗った刃がロイドを襲うが、彼と戦うことを拒んだ少年の双剣は、下ろされた剣を受け止めることすら出来ない。

「何やってんのさ、アンタたちは」

甲高い音と、凛とした声が重なった。流れる空色。彼とロイドの間に割り込み、刃を受け止めた双剣を握る少女の姿に、ゼロスの笑みが濃くなった。

「ぼさっとしてんじゃないよ。ここはあたしが引き受けるから、アンタたちはコレット追いな」

両腕に瞬間的に力を込め、青年の体を押し返す。ゼロスと距離を取ったところで、幸いにも動いているらしいワープ装置に目を向けた。
ロイドたちは暫し躊躇ったが、少女の気迫に圧され、ゼロスの脇を走り抜けて装置へ向かう。しかしそれを、彼は許さない。

「おいおい、俺さまが行かせると思うか?」

足元に広がる術式に、反射的にガードの体勢をとる。しかし彼の詠唱を止めたのは、やはり少女の剣だった。

「何のためにあたしがいると思ってんの」

装置の上に立ったロイドたちが消えた。それを見送って、二人は向かい合う。どちらもただ、笑っていた。





赤の刃、青の双刃




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