リフィルの力だけではアルテスタの怪我を治しきれないらしく、医者を連れて来ることになった。優秀な医者を知っている、というしいなの言葉により、フラノールへ向かい、医者に話をつけたわけだが。

「なんで俺さまたちが置き去りにされなきゃなんねーわけ…?」

アルテスタの家に向かったのは医者と、彼が護衛にと選んだ五人だけ。レアバードを医者に貸してしまったロイドと、コレット、ゼロス、そしてクライサはフラノールの宿で一晩を過ごすこととなった。

「文句言わないの。一晩くらい我慢しなって」

床に座り込んでぶつくさ言うゼロスに、呆れ顔のクライサがマグカップを差し出した。中身は温かいココア。砂糖が少しだけ入った、甘さ控え目仕様だ。
顔を上げた彼がそれを受け取るのを確認して、クライサはその隣に腰を下ろした。そもそもここは自分にあてられた部屋なのだが、何故当たり前のようにこいつがいるのやら。疑問に思いつつも追い出さないあたり、自分も甘いもんだと苦笑する。

「ロイドくんは?」

「さっきコレットと一緒に出てった。今頃外でイチャイチャしてんじゃない?」

「この寒いのによくやるねぇ…」

ゼロスはフラノールが嫌いらしい。この街が、というよりは雪が好きでないようだ。珍しくナンパもせずに宿屋に籠っている。

「ゼロスってさぁ」

「んー?」

「なんで雪嫌いなの?」

隣で、微かに身を固くする気配がした。けれど目を向けることはせず、カップに口を付ける。答えは返ってこなかった。

「……クライサちゃんこそ、あんま雪好きそうじゃねーよな」

「別に嫌いでもないけどね。雪見てると、セルシウスより雪山の似合う女将軍を思い出すからさ」

「へ、へぇ…」

立ち上がる。冷めてきたココアを一気に飲み干し、まだ座ったままの男を見下ろした。

「何を迷ってるんだか知らないけどさ、そんな顔、ロイドに見せないほうがいいよ」

あいつ、変なところで鋭いんだから。ニヤリと笑うと、ゼロスは目を丸くした。それから同じようにココアを飲み干し、空になったカップをクライサへ差し出す。

「何」

「おかわり」

「自分で淹れなよ」

「クライサちゃんの淹れたやつがいいんだよ」

「……仕方ないなぁ」

わざとらしく溜め息を吐いてみせてからカップを受け取ると、二つのそれを左手で持ち、空いた片手を赤い頭に乗せた。

「……クライサちゃん?」

「どうかした?」

「いや、それはこっちの台詞…」

小さな子どもにするように、優しく頭を撫でられる。どうしたもんか。ゼロスは戸惑う以外、何も出来なかった。





選択の夜




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