左手の甲に装備したエクスフィアのおかげで、全身を襲っていた激痛は治まり、食欲も徐々にわいてきた。気怠さも無くなり、感覚の異常も無い。完全回復、すこぶる快調。
腰に二重に巻いたベルトの間に鞘を差し込み、手入れを終えた剣を仕舞う。チン、と甲高く小さな音を耳にしてから、長い髪を揺らして振り返る。扉を背にするように立つ少年に、声をかけられた。

「元気になったんですね、クライサさん」

金色の髪を肩辺りまで伸ばした少年だった。まだ高い声と中性的な顔立ちのせいか少女にも見えなくないが、いずれにせよ美少年、美少女と呼べる。
よかった、と笑う彼に、クライサは首を傾げた。

「どちらさま?」

「え、僕たち初対面じゃないですよね」

そんなこと言われても、会った記憶が無いんですが。

「ミトスですよ。アルテスタさんにお世話になってる…」

「……ああ、ロイドたちがオゼットで拾ったとかいう…」

「拾っ…」

「でもあたしがここに預けられた時、アンタいなかったよね?」

「その時はお使いを頼まれて出かけてました。けど、ジーニアスたちが戻ってきてからはずっと家の中にいましたよ」

「そうだっけ?気付かなかった」

うーん、言われてみればいたような気もしてきた。いたかも。まあ、本人がいたって言っているのだし、そういうことにしておこう。
少年は若干肩を落とした様子ではあるが、特に気にせず再び目を合わせる。

「で、空気くん」

「ミトスです」

「本当に、良かったと思ってる?」

目を瞬かせた彼に、にぃと笑って。返事を待つことなくその横を通り過ぎ、扉に手をかける。開いたドアの先ではロイドをはじめとした面々がそれぞれに寛いでおり、寝室を出たクライサを笑顔で迎えた。ゼロスの姿を見かけないことに首を捻れば、彼はタバサを手伝って夕食の支度をしているのだと。
テーブルの前に置かれた椅子に座るコレットの笑顔に呼ばれ、その隣に腰を下ろす。ああ本当に、この笑顔が失われなくて良かった。

視線を巡らせれば、床に座り込むジーニアスの元に歩み寄るミトスを見つけて、微かに目を細める。

「……なーに隠してんだか」

「クライサ?」

「んー、なんでもない」




垣間見た闇




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