なるほど、解決策を知っていたからあれだけの落ち着きようだったのか。苦笑を浮かべて、ベッドに横たわる少女を見下ろした。
作業場の方にアルテスタとタバサはいるが、今寝室にいるのはクライサとゼロスだけだ。
抑制鉱石を手に入れるため、彼らを除く全員がトイズバレー鉱山に向かった。あそこには、プレセアのための要の紋を作るために一度行っているから、それほど時間をかけることなく帰って来れるだろう。何より、今の彼らにはレアバードがある。

発作のようなものを起こして倒れたクライサの看病を任されたゼロスは、ベッドの脇に椅子を置き、そこに腰を下ろして痛みと闘う少女を見守っている。何も出来ないのが歯痒い。声をかけても名を呼んでも返答は無く、そばに自分が……いや、人がいるかすらも気付いていないんじゃないかと思う。

「クライサちゃん」

返ってくるのは呻き声だけ。眉を寄せた苦しげな表情のまま、瞼も開かれることはない。
何も出来ない。それはわかりきっているのだが、ただ見ているだけなんて耐えられなくて、手を伸ばした。汗ばむ額に触れ、張りついた前髪を払ってやり、頬を撫でる。酷く冷えた肌を温めるように、何度も手を行き来させているうちに、次第に呼吸が落ち着いてきた。
また名を呼んで、シーツを握り締めていた手に、もう片方の手を重ねる。反対の手で変わらず髪や頬を撫でてやると、シーツを掴んでいた手が上を向き、握る対象をゼロスの右手に変えてきた。無意識の行動なのだろう。やはり目は開かず、答える声は無い。
上下していた胸の動きも次第に小さくなって、握られた手の力も弱まってきた。代わりに優しく握り返してまた名前を呼ぶ。返ってきたのは穏やかな寝息で、無意識に口元が弛んだ。

静かに眠り始めた少女は、普段以上に幼く見え、正直ジーニアスと同い年だと言われても納得出来る程だ(実際は三つも上なのだけど)。いつもの強気な表情も彼女らしくていいが、この無防備さも可愛らしい。
ん、と声を漏らして握った手を引かれ、横を向いた顔のそばに置いて満足そうな笑みを浮かべられては、こちらの顔もにやけてしまう。小動物のようだ。
頬にかかった髪を空いた手で払い、身を屈める。ふっくらとした肌に顔を近付けてーー止まった。いやちょっと待て。俺さま、今一体何をしようとした。落ち着け俺さまほら深呼吸!
思わず立ち上がって逃げ出そうとしたが、繋がったままの右手は起こしてしまいそうで放すに放せない。

ロイドたちが帰ってくるまでの間、暫しの地獄の時間を体感してしまったと、後にゼロスは語る。




ああもう、何やってんだか




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