彼女の左耳。二つあるうちの片方、赤い石のついたピアス。その赤い石が、信じられないが、アイオニトスだったのだ。
本来デリス・カーラーンにしか無い筈の鉱石を、どうして異世界の人間である彼女が持っているのか。それが今の彼女の状態にどうして関係があるのか。見当もつかないロイドたちは、アルテスタに話の先を促す。
粉末状にしたアイオニトスを飲んだおかげで、人間でありながら魔術を使える魔剣士であるゼロスだけが、だからクライサは魔術を扱えたのかと納得した。

「アイオニトスは、低い確率でエクスフィアに反応する」

言うアルテスタですら、困惑した様子だ。
本当に本当に低い、限りなくゼロに近い確率。理論的には起こり得るのだが、実際には有り得ないと言い切れる程のものだ。言うなれば、コレットを襲った病よりもずっとずっと起こる可能性が無い症状。

エクスフィアを感じて反応を始めたアイオニトスは、装備した者(例えばゼロスのように飲み込んだ者)に天使化に近い症状をもたらす。実際にかかった例を見たことが無いので、アルテスタにも詳しいことはわからないのだが、症状を起こした者は異世界の人間だ。元より勝手が違う。
異世界の人間だからこそ、イレギュラーを引き起こす確率が高かったり、ただそばにあるだけのアイオニトスの反応を受けてしまったのだろうか。

「それで、クライサはどうなるの…?」

不安気なジーニアスの問いに、アルテスタは口を噤んだ。暫しの沈黙。彼の言葉を待って、瞬きすら出来ずにいる少年たちを見渡して、漸くゆっくりと言葉を紡ぐ。

「……今のクライサは、肉体を作り替えようとする力に抗っている状態だ」

例えるなら、風邪等のウィルスと戦うために熱を出している。度合いは違うがそれと同じだ。そのままの状態が永遠に続くわけはないが、どちらかが力尽きるまでは苦しみ続けることとなる。

「そしてアイオニトスが呼ぶ天使化は、途中で終わることは無い」

「…待ってよ…それって、つまり…」

「クライサが、天使になるってことか…?」

「……いや、」

天使化の力が勝った時、尽きたほうの力は肉体を守ろうとする、謂わば生命力だ。生命力が尽きるということは、すなわち。

「死ぬってことでしょ」

室内に、少女の凛とした声が響いた。




少女の笑顔に、涙が出た




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