まずは食欲、次いで睡眠欲、痛覚、触覚、声、最後には心と記憶を失い、代わりに視力や聴覚は格段に鋭くなる。それがコレットの通った(通らされた)、天使化への道だった。

「……何だよ、それ」

捻り出すような声でロイドが言った。他の者も、言葉こそ口にしなかったが、みな同じ気持ちだろう。

クライサ抜きのパーティーで救いの塔に向かうと、青い羽を背にしたクラトスが待ち受けていた。彼に捕らえられた一行はウィルガイアに連行され、しかし上手く牢を抜け出しマナのかけらを得ることに成功。逃げる途中天使に見つかったり、ユグドラシルと戦闘になったりもしたのだが、なんとかアルテスタの家まで戻ってくることが出来た。
救いの塔を出る直前に倒れてしまったコレットの治療のため、急いでアルテスタにルーンクレフトを作ってもらい、少し時間はかかったものの、コレットの結晶化は治まり回復した。

しかしひとまず安堵した一行の前に立ったアルテスタは、変わらず深刻そうな表情で、もう一人の少女の容体について語り始めた。

「天使、化?クライサが?」

「けれど、あの子はクルシスの輝石どころか、エクスフィアでさえ着けていなくてよ!?」

だから、完全な天使化でなく、それに似たものなのだ。アルテスタは言う。
彼女の症状には波がある。食事を取らせようとしても、時には少量ながら口にするのだが、時には皿を見ただけでももどしそうになってしまう。終始ベッドに横たわっているのに、眠りに落ちているのを見たのはほんの数回のみで、ほとんどの時間は目を開けている。
触覚や声も、瞬間的にではあるが確かに失う時があるのだ。たまたまだとか、他の病ではないかと疑わせないほどに。

「けど、痛覚はあるんだろ?俺さま、クライサちゃんが痛そうに…苦しそうにしてるとこ、倒れる前から見てるけど」

問題は、それだ。普通の天使化と違う、特に彼女を苦しめているのはそれなのだ。
特殊なエクスフィアを身につけていないクライサは、何らかの原因をもって今の症状を起こしている。更に何らかの原因で、身体が天使になるのを拒絶しているのだ。

「従来の天使化とは違い、肉体ごと天使のものに変換されようとしている…そしてそれを拒絶しようと、やはり肉体が反発している」

「言うなれば、外側からの力と内側からの力がぶつかり合っている、ということなのかしら」

リーガルとリフィルの言葉に、その通りだとアルテスタは頷いた。そして、そもそもの原因にも見当がついていると続け、全員の視線が向く。
彼が口にしたのは、意外な単語だった。



『ピアスだ』と



 09 


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