頭は、風邪を引いた時と同じような鈍痛が残るだけで、少しぼんやりする以外に障害は無い。あれだけの激痛が走っていた身体も、今はだいぶ落ち着いて、大人しくシーツに沈んでいる。
具合はどうだと訊かれたので、いくらか楽になった呼吸で、おかげさまで、とだけ返した。
それほど高くもない天井を、どれだけの時間見ていただろう。痛みはだいぶ引いたとはいえ、体を起こすのも、首を動かすのですらも億劫なので、部屋中をきょろきょろと見回す気にもなれない。見回したところで、大した変化は無いのだけれど。

ここはテセアラのドワーフ、アルテスタの家。彼と彼の作った人形であるタバサしか住んでいないここに、少し前からお世話になっています。
まあ要するに、このクライサ・リミスク、救いの塔に向かったロイドたちに置いていかれたわけです。

(ま、あたしが置いてけって言ったんだけどさ)

痛みに苦しむ少女を放ってはおけないと、躊躇う一行の背を押したのも自分だ。恨み言など言う気も無い。
コレットに時間が無いのは全員が知っていたことだし、原因不明の体調不良のせいでろくに体を動かせない自分が足手纏いにしかならないのは、誰よりクライサがわかっていた。だから、この選択を後悔するつもりも無い。

さて、マナのかけら云々のことはとりあえずロイドたちを信じるとして、体の動かない今は考え事にでも徹しようか。何しろ睡魔が訪れないのだ。

(こんな症状、この世界に来る前は一切なかった)

ということはつまり、よほどの偶然でない限り、この世界に来てしまったがために引き起こされたものなのだろう。そして、リフィルやゼロスたちの反応を見ると、流行り病の類でもない。コレットのように、限りなく低い確率でかかる病なのか、はたまた完全に未知の病なのか。
ああ、まったく面倒くさい。このまま治らないようでは、旅についていくどころか、まともに歩き回ることも出来ないじゃないか。退屈で死ねる。

「クライサ」

先ほど顔を見せたばかりのアルテスタが、もう一度部屋に入ってきた。彼があまりに深刻そうな顔をしているものだから、気怠い体を半ば無理矢理起こし、ベッドの脇にあたる壁に背を預ける。彼の斜め後ろに立っていたタバサが、ごく機械的な動作でこちらに歩み寄り何かを差し出してきた。本のようなそれは、表紙も中身も古くボロボロで、受け取ると少しの埃臭さが鼻につく。
タバサが言った数字に合わせてページを捲ると、アルテスタが重たそうに口を開いた。





冗談でしょ、なんて言えなかった



 08 


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