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「企業秘密だ」
「え、企業なの?」
「お前の気にすることじゃない。とうの昔に死んだやつのものだ」
そうは言うが、確かに生きていた人の一生の時間を、本人に断りもなく使っていいものなのだろうか。
っていうか反則くさい。
「いいんだよ。他に使い道もないんだ。お前が使ってとやかく言うやつもいない」
「そんなもんなの…?」
ならいいかな。
改めて、指先でつまんだ『石』を見る。
理が言うには、これを魂に吸収すれば…つまり薬のようにして飲み込めば、クライサは新たに『時間』を得ることが出来るらしい(軽くマユツバだが、もう深くは聞くまい)。
「『石』の大きさがお前にしかわからない以上、どれだけの『時間』をお前が得られるかは俺にもわからない。だが、決して長くはないということは覚えておけ」
「『時間』がなくなるとどうなるの?」
「簡単に言えば、それは寿命がなくなるってことだ。残された『時間』が減るのに応じて、身体の機能が落ちていく。最終的に行き着くのは、死だ」
口調は淡々としているのに、説明する表情に悲痛そうな色が見える。
優しい人だと、ぼんやりと思った。
「……そっか」
「粒だと称したお前の言葉から考えれば……きっと、十年もない」
「そんな申し訳なさそうな顔しないでよ」
少年の顔をした彼に手を伸ばし、頬に触れる。
ぽん、と軽く叩くようにして触れれば、確かな温かさが手のひらに伝わった。
理は意外そうに目を瞬いてこちらを見下ろす。
「充分だよ。あたしは、アイツを倒す時間があれば、それでいい」
約束を守るための時間があれば、多くは望まない。
このまま死ぬ運命だったことを思えば、贅沢なんて言っていられないだろう。
「……そうか」
理は、少しだけ、悲しそうに微笑った。
「その『爆弾』は、数年以内にお前を殺す。それは避けられない事実だ。……それでも、お前は受け入れるのか」
「受け入れなきゃ、このまま死ぬんでしょ。だったらあたしは何もしないで終わるより、ほんの少しの時間でも全力で足掻きたい」
「……お前らしいな」
「でしょ?」
いつもの調子で笑みを見せれば、理は小さく頷いて、もう行ってしまえと言うように背を向けた。
クライサはそれに苦笑いしてから、手にしていた青石を口に放り込み、飲み込んだ。
と、同時に暗闇の中に光が生まれ、それがだんだんと扉を形作る。
この空間から出るための扉なのだろう。
クライサは開かれたそちらへ足を向け……かけて、止まった。
「ねぇ」
振り返る。
呼びかけた先の彼は、未だこちらに背を向けている。
「なんでアンタはここにいるの?」
どうしてあたしに『時間』をくれるの。
「アンタは、誰?」
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