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「なんだ。結局あたしが選ぶ道は一つしかないんだ」

それでもやはり、クライサは笑うのだ。

「上等だよ。どんな地獄だろうが、あたしはおもしろおかしく生き抜いてやる」

冗談でも強がりでもなく、本気でそう言って笑うのだ。
その自信に満ち溢れた笑顔に、理はそこで初めて微笑みを見せる。

(……あれ)

その笑みを見たことがあるような気がした……微かな既視感に、クライサは目を瞬いた。

「そう言うと思った」

理は微笑みを消し、二本の指を立てていた左手を、今度はクライサに向けて差し出した。
その手のひらには、空のように鮮やかで、海のように深い色をした青く丸い石がある。
とても小さくて、一度落としてしまえば再び探し出すのは困難のように思える一粒だ。

「言ったな。お前にはもう『時間』が残されていない。自力ではどうにも出来ないだろう」

「うん」

「ならば、他から与えられた『時間』があれば?」

クライサは差し出された手のひらを見下ろした。

「これは、ある人間の『時間』を凝縮したものだ。お前に、この石はどう見える?」

「正露丸より小さく見える」

「……(まぁいいか)。そうだな、他人にはとてつもなく小さく見えるだろう」

「他人にはってことは、その『ある人間』には大きく見えるの?」

「当然だ。これはその人間が生きてきた『時間』……つまり『一生』なんだ。小さくてたまるか」

ひとりの人間が生きた時間、一生。
そんなものが、何故ここにあるのだ。
何故自分に差し出されているのだ。
クライサは疑問を投げるように理を見るが、彼は先と同じように微笑むだけ。

「お前の目に映るように、この『時間』は他人にとってはとてつもなく小さなものだ。元がどれだけ長くても…例えば100歳のじいさんまで生きた人間のものだとしても、お前に100年の時間が与えられるわけじゃない」

「…元がどれだけ大きな岩でも、小さな粒にしか見えないあたしにとっては、これは粒でしかない、と?」

「そういうことだ。それだけ小さな粒にしか見えないということは…」

その先を、理は口にしなかった。
クライサがその『石』を受け取ったのだ。

「この『時間』は、元は誰のものなの?」

親指と人差し指でつまみ上げたそれを、クライサはまるで日に透かすようにしてまじまじと眺める。
暗闇でしかないこの部屋でも、美しいと表することの出来る青さだった(光がどこにも見当たらないのにものが見えるのか、疑問に思わなくもないがやめた。理マジックと呼ぶことにした)。








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