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運命の延長なんて、誰にでも許されていることとは思えない。
ならばここにいる彼は、何か特別な理由があってクライサに生きる時間を与えてくれたのではないか。

「……俺たちが、お前の運命を作ったようなものだからな」

暫しの沈黙の後、呟くように言いながら理はゆっくりと振り返った。

「俺たちの勝手な行動が、お前を生み、お前を殺した」

俺たちが逃げなければ、あいつは追って来なかった。
逃げた先があの村でなければ、お前たちは生まれなかった。

「あの村を滅ぼしたのはお前じゃない。俺たちだ」

「……それ」

「後悔してもしきれない。あの村を選ばなければ、彼女は殺されなかったかもしれないのに。俺が彼女を選ばなければ、シェリーは生まれず、殺されなかったのに」

クライサは目を瞠る。
彼が口にしたそれは、母の名だった。

「……アンタ、もしかして」

「これは償い…のつもりだったんだろう。それでお前が救われるとは思えないが」

理は微笑んだ。
とても綺麗に、そしてとても哀しく。

クライサは暫く黙っていたが、やがて顔を上げ、真っ直ぐに理を見て口を開く。

「そうだね。アンタが違う道を選んでいれば、あたしは生まれなかった」

ウィルヘイムが滅ぼされることも、両親が殺されることもなかったかもしれない。
リオは家族と平和に暮らせたのかもしれない。
人造人間たちに利用されることも、姉と敵対することもなかった。
あれも、これも、尽きないくらいに『なかった筈のこと』が挙げられる。
当然だ、その仮定ではクライサは存在していないのだから。

「でもね、そしたらあたしは会えなかった」

愛しい家族にも。
かけがえのない兄にも。
親友にも、仲間たちにも、友人たちにも。
ーー好きな人にも。

「アンタたちのおかげなんて言うつもりはないよ。……だけど、アンタたちのせいだとも言わない」

誰かのせいになんてしない。
決められた運命?
そんなの知るか!

「あたしは、あたしがこれまで生きてきた時間を否定したくないから」

たった15年ぽっちの時間でも、自分にとってはとても大切な人生だ。
理がくれた石のように、他人にとって、世界にとってどれだけ小さかろうと、クライサ・リミスクという一人の人間にとってはそうではない。
良くも悪くも、それはかけがえのない時間なのだ。
それを無かったことになんてしたくない。

「……そうだな。他人に謝られる理由はない、か」

「そうだよ。あたしはこれまでの人生、誇りに思ってるから」

だから、と続けて、クライサは自身の胸に手を当てた。

「これからの人生だって、誇れるものにしてみせる」

自信満々に。
無垢無邪気に、満面の笑みを理へ送った。
自然と返される微笑みに満足げに頷いてから、改めて光の扉へ足を向ける。

「『時間』をくれてありがとう。……さよなら、おじいちゃん」









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