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『信じてよ』

信じてる。
信じてるさ、情けないことに。
どれだけ憎悪を口にしようと、彼女は親友に変わりないのだ。
彼女以外を親友と呼ぶ気はないし、彼女にも自分以上の親友はいないと確信している。

信じてる、けど。

「中尉!!中尉、しっかりしろ!!」

首から血を流し、倒れたホークアイの姿に、彼女が重なってならない。
身動きのとれない状態にある今、何より必要なのは冷静な思考と正確な状況判断だというのに。
抑えられない動揺にリオは唇を噛んだ。

「どうする?マスタング君。君の大事な女が死にかけている。放っておけばすぐ失血死」

男の言う通りなのだろう。
倒れたホークアイの下に広がる血溜まりはみるみる大きくなっていく。
浅い呼吸を繰り返しながら、辛うじて意識を保っている状態だ。

だが、と前置きして、男は自身の懐に手を入れた。
そこから取り出したのは、赤い液体状のものが入った小瓶。

「私は錬金術の使える医者で、なんと賢者の石まで持っている。さぁ、君のとるべき選択は?」

人体錬成をしろ、と男は言う。
人体錬成などする必要はない、とホークアイが言う。

ロイが決断を迫られる中、リオはただ黙って成り行きを見守っていた。
悔しいが、今の状況では何も出来ない。
それはスカーも同じだ。
何か、あの老人や男たちの隙をつくようなことが出来れば、話は違うのだが。

「……わかった」

暫しの沈黙の後、ロイが口を開いた。
その言葉に男は嬉々とした表情になるが、

「わかったよ中尉。人体錬成はしない」

その一瞬後、見事に否定を突きつけられた。

「見捨てるのか?冷たいね君」

「見捨てる?この大総統候補たちを捨て駒のように扱う貴様に言われたくないな」

「親に捨てられ、そのままでは死んでいたであろう者たちに食事を与えた。一流の教育を与えた。そして存在意義を与えた。この者らは私に感謝しているだろうよ」

「そんなだから、貴様は足元をすくわれるのだ」

告げた瞬間、老人が消えた。
いや、その頭上から引っ張り上げられたのだ。
驚きの声を上げる彼の首から胸にかけて巻きつくのは、カエルと人間の合成獣が吐き出す唾液の塊。

「感謝しているかって?まぁこういう時は、こんな便利な身体にしてくれてありがとよ…と作り主に感謝するけどな」

てめぇらみたいなタイプは、正直ぶっ殺したいね。
ジェルソが言えば、慌てふためく老人は声を張り上げる。
今この場で錬金術の使える医者は自分だけだ、と。
しかし。

「私を殺せばこの女は助からんぞ!!わかっているのか!!」

「セリフが三流以下だぜ、お医者サマよう」

彼らより更に上から飛び下りた、二つの影。
メイとザンパノは、着地と同時に針やナイフのような武器(ヒョウというらしい)を飛ばし、リオとスカーを囲む男たちやロイを捕らえていた者を攻撃した。
包囲が崩れると、リオたちはすぐさま動き出す。

「穴の上から大体話は聴いてた!こいつらはまかせろ!」

「兄貴は中尉を!」

「すまない……たのむ!」

リオは右手にした愛剣とは別に、床に落ちた剣を拾って軽く振るう。
そして同じように上から降りてきたダリウスと共に、スカーらと交戦している男たちへと向かっていった。








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