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「……死ん、だ…?」
嘘だ。
嘘に決まってる。
そんな筈、あるわけがないじゃないか。
『信じてよ、親友』
あの少女が、約束を違えるなんて。
こんなところで、死ぬなんて。
「まったく…こんなギリギリで死ぬなんて、困ったものだね」
手のひらで顎をさすりながら、男は嘆くような口振りをする。
「あれだけ時間をかけて用意した人柱だというのに……。肝心な時に死んでしまうとは、やはりクレアの孫か。いらんところまで似てしまったね」
エドワードを『あのお方』とやらの元へ送ったあの術は、人柱とされている他の面々ーーアルフォンスやイズミもとらえたらしいのだが、クライサだけはつかまらなかったのだと男は言った。
術から逃れたのではなく、既に死んでいるから対象と出来なかったのだろうとも。
嘘だ、と、その胸ぐらに掴みかかって否定したかったが、彼を守る男たちに阻まれて近付けもしない。
一人一人が高い戦闘能力を持つというのに多数でかかってこられては、さすがのリオでも防戦一方になってしまう。
同じく数人の剣に押されているスカーと背中合わせになると、その周りを囲む男たちが剣先をリオとスカーに向けて止まった。
「よーし、いいぞ。そのまま」
舌打ちして動きを止めたリオが目を向けた先で、医者風の老人が手を叩く。
「ラジオ局にいるものかと思っていたが、わざわざ出向いてくれるとはね。時間が無いので助かるよ、マスタング君」
見れば、ロイもホークアイも押さえ込まれた後だった。
特にロイは、二人の男にそれぞれ両腕を押さえられており、完全に動きを封じられている。
「君、ちょっと人体錬成して扉を開けてくれないかね」
どうやら、『死んだ』クライサの代わりに、ロイを人柱にしようとしているようだ。
誰でもいいから錬成しろ、段取りはこちらでしてやる、と男は皺だらけの顔に終始笑みを浮かべている。
「扉さえ開けて戻って来てくれれば、それでいいんだよ」
「断る!!人体錬成はせん!!扉も開けん!!」
ロイが拒否するのは当然だ。
人体錬成は成功しない、というのは既にエルリック兄弟から聞いている事実。
とすれば彼にメリットはなく、むしろリスクしかない話に彼が乗るわけがない。
わざわざ人柱を揃えてやる義理もない。
しかし、彼が簡単に了承する筈がないことは、男もよく知っていた。
「言ったよね。時間が無いって」
その瞬間、ホークアイを押さえ込んでいた男が動いた。
刃が彼女の首を切り裂く。
頸動脈を深く傷つけられ、大量の鮮血が散る中、彼女は崩れた。
「中尉!!!」
ーーさぁ、扉を開けてみようか。
25.
nothing without you
不在の君
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