赤星は廻る | ナノ



06

 



倒れたエステルをユーリとラピードに任せて、アカは周囲の警戒のために森の中を歩いていた。噂のせいか、やはり人影は無い。いるのは魔物くらいだ。呪いも降りかかってきそうにないし、異変も無いようだからと、ユーリらのいる場所に戻るべく踵を返そうとしたところで。

「わあああああ!!」

……なんか聞き覚えのある声がした。悲鳴の聞こえたほうを見てみれば、熊型の魔物に少年が襲われているではないか。

「……カロル?」

大きな鞄を肩から下げ、茶髪をリーゼント風にまとめた少年、カロル・カペルは、半分に折れた大剣をめちゃくちゃに振っている。完全にパニック状態に陥っている少年は、しかし逃げ出そうとはしていない。そういった発想が無かった、というわけではなさそうなので、どうやら何かわけがあるようだ。
仕方ない。背負った剣を一本抜き、軽く振りながら狙いを定める。魔物の動きが一瞬止まったその時、

「魔神剣!」

大きく振り抜いた剣が発する衝撃波が、刃となって地面を駆ける。見事命中し魔物が倒れたのを確認しつつ、もう一方の剣を抜いて走り出した。あれだけ大きな魔物が、あの一発で仕留められるとは思っていない。体を起こそうとした腕を斬りつけ、バランスを崩したところで闘気を塊にしてぶつける。腰を抜かした少年がこちらの名を呼んだが、返すことなく魔物にとどめの一撃を食らわせた。

「ハルルの結界が切れた?」

剣についた血を払い、鞘に収めながら問い返す。落ち着きを取り戻したカロルは、うんと大きく頷いた。
花の街ハルルの結界は、ハルルの樹と呼ばれる大樹に魔導器が融合して結界魔導器の効力を発揮しているという珍しいタイプのものだ。しかし、満開になる前の時期だけ結界の力が弱るらしく、そこを狙った魔物に襲われ、樹が枯れ始めてしまっているらしい。今のハルルは結界に守られていない。カロルは魔物の毒に侵されているという樹を治すために、パナシーアボトルの素材を集めているそうだ。

「ニアの実とルルリエの花びら、エッグベアの爪の三つが必要なんだ」

「なるほど、それでか」

だから先程の魔物ーーエッグベアから逃げなかったのか。しかし、アカが通りかからなかったらどうするつもりだったのやら。

「とにかく助かったよ、アカ。これで素材が全部集まった」

「そりゃよかった」

こちらとしては余計な労働をすることになってしまったわけだが。傭兵として契約して働いたわけではないから金もとれないし。……まあ、仕方ないか。





これが呪いだと思えば、安いもんさ



SKIT
武醒魔導器について
呪いについて





 


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