初めてのキスは、葉巻の味だった。
彼にキスをされたあの日、本当だったら友人と楽しくショッピングをする予定だったのに、私が友人との待ち合わせ場所に戻ると、案の定友人は怒っていたし(アイスを奢ってあげたら機嫌は直ったけど)、私はあのキスがずっと頭から離れなくて、買い物もろくにできなかった。

期待させるようなことはするな。

彼は確かにそう言った。恋愛に疎い私でも、さすがにこの言葉の意味は分かる。期待、してもいいのだろうか。

「……」

あの日からどれくらい経っただろう。もう随分と日が経った気がする。

――会いたい、なあ…
そう思ってカウンターの中から外を見た。
ガラスの外は色とりどりの傘。つい先程から雨が降りだした。まだそんなに強くは無いが、雨の中、しかも夜にわざわざ外で食事をする人は少なく、店内もお客さんがぽつぽついるくらい。ただえさえこんな天候なのに、彼が来るはずはない。

「名前ちゃん、どうした?ぼーっとして」
「え?い、いや、何でもないです」
「そうかー?なんか怪しいなァ」

ニヤニヤと私の顔を覗き込むマスターにぎくりとする。やっぱり私、顔に出やすいのか…。

「何でも無いですってば!あ、マスター、奥さんとお腹の赤ちゃん元気ですか?」
「あぁ、元気さ!今日もお腹を蹴ってたよ〜!」

これ以上詮索されまいと話題を変える。マスターが奥さんとお腹の赤ちゃんを溺愛していることを知っている私は、予想通りマスターが嬉しそうに奥さんと赤ちゃんの様子を語り始めたことに安堵した。




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