凍えたままの心が



「もう、これきりにしてください、シュラ様……。」


俺の腕の中で小さく身を縮ませていたアレックスが、不意にポツリと呟いた。
それは微かで消え入りそうな声でありながら、真っ直ぐに俺の耳へと届いた。
ホテルの大きなベッドの真ん中で、身を寄せ合って眠っていた俺達。
俺はアレックスの肩を抱き、アレックスは俺の胸に頭を寄せて。
静かで、それでいて、情熱的な行為の余韻を噛み締めていた時に零された台詞は、妙に心をざわめかせ、俺は身体を横向きに変えて、アレックスの顔を覗き込んだ。
動きに合わせて、ギシリとベッドが鳴る。


「どういう意味だ?」
「そのままの意味です。もう、このような身体だけの関係は、終わりにして欲しいのです。」


アレックスは白い天井を見上げたまま横たわり、俺の方を見ようともしなかった。
淡々と語る口調、ゆっくりと繰り返される瞬き。
薄い唇が開けば、漏れ出るのは終わりを望む言葉だけ。
あぁ、本気なのだな。
感情を殺したアレックスの様子に、俺を試している訳でも、揺さ振りを掛けてきている訳でもなく、ただただ言葉通りの事を願っているのだと知った。


「都合の良い女で構わないと思っていました。シュラ様のような素敵な方と共に夜を過ごせる、それは夢のようで、身体だけの関係でも十分に満足でした。でも、今日という日の誘いはナシでしょう? 私も女です。クリスマス・イブの夜に誘われては、勘違いもしたくなります。」
「アレックス……。」
「だから、今夜が最後にしてください。勘違いをして、貴方へ期待を持つようになっては、貴方も私も辛いだけです。」


この想いが恋に発展する前に、綺麗な思い出のまま終わらせたい。
アレックスは俺と共に過ごすために、自分の気持ちに蓋をした。
それを、俺は迂闊にも、そんな彼女の想いなど考えもせずに誘いの声を掛け、何もかもをぶち壊してしまった。
たまたま任務で日本に滞在しているからと、それだけの理由で、イブの夜の逢瀬を提案したのだ。
断る理由のなかったアレックスにとって、それは別れの宣告に等しかった。


「嫌だと言ったら?」
「そのような駄々を捏ねる方ではないでしょう、貴方は。」
「ならば、本当の恋人同士になるか?」
「恋人同士になれるのでしたら嬉しいのですけど。でも、そうなれない事は、シュラ様が一番良く分かっている筈です。」


クスクスと何処か儚げな笑みを零す。
全てアレックスの言う通りだった。
俺と彼女は本当の恋人同士にはなれない。
どんなにアレックスを気に入っていようと、どんなに俺とアレックスの身体の相性が良かろうと、俺は彼女を愛せない。
アレックスの事は好きだが、愛してはいない、それは明白な事実。


「今宵が最後です。もう二人の関係も終わり。だから、朝が来るまで、どうぞいっぱい愛してください、シュラ様……。」
「……分かった。」


やっとコチラを向いたアレックスと視線がぶつかり、ジッと見つめ合う。
俺は深く、力強く頷いた後、彼女の上に覆い被さり、先程まで濃密に繰り返した情熱的な行為に、再び身を沈めた。
心も身体もアレックスに没頭し、一生、彼女の事を忘れまいと、自分に、そして、アレックスの奥深くに刻み込むように、殊更に激しく動いた。



凍えた心に注ぐ、最後の情熱の証



(……朝など来なければ良いな。)
(そのような事を仰らないでください、シュラ様……。)



‐end‐





クリスマス当日のアップは山羊さまと決めていました。
勿論、愛故ですよw
でも、ちょっと切ない感じに仕上げちゃったんですけどね^^;
えち友から始まり、そして終わる恋、そんなイメージです。

2014.12.25

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