離れていても届く温もり



あまりに落ち着かない様子の俺に、今日は早く帰っても良いと言ってくれたのはサガだった。
礼の言葉もそこそこに、自宮に戻り、また直ぐに宮を出る。
光速で駆け抜けたいのをグッと堪えて、不審に思われない程度の速さでアテネの街まで辿り着くと、予約していたホテルの部屋へと向かった。


上がる息もそのままに、受話器を手に取る。
大丈夫、この時間なら、まだ間に合う。
ワンコール、ツーコール……。
なかなか出ない事に苛立ちそうになりながら、腕の時計を見た。
この時間なら、日本では、まだ日付が変わるギリギリ前の筈。


「……はい。」
「アレックスか?」
「アイオロス? どうしたの、こんな時間に。」


やっと聞けた電話の向こう側の彼女の声。
ホッと安堵の息を吐きつつ、ベッドに腰を掛けた。
耳に届くのは微かに呆れを含んだアレックスの溜息。
遠い遠い日本に居る彼女の表情さえ、目に見えるようだ。
そんな聞き慣れた、いつもの返答。


「執務はどうしたの? そっちでは、まだ終業時間ではないでしょうに。」
「サボったと思ってるなら、お生憎様だな。ちゃんとサガから許可を貰っている。」
「本当に?」
「本当だって。相変わらず疑い深いな、アレックスは。」
「私が疑い深いんじゃなくて、アイオロスが信用ないのよ。」


それを言われてしまうと、ハハハと乾いた笑いしか浮かんでこない。
俺はアレックスが傍に居ないと、何も出来ないんだ。
やる気も起きないし、彼女に会いたくて、居ても立ってもいられなくなる。


「……アレックスは今、何をしてたんだ?」
「もう寝ようとしていたのよ。」
「クリスマスの夜に、一人寂しく?」
「仕方ないじゃない。誰かさんはギリシャ、私は日本。こんなに離れているんだもの。」


黄金聖闘士の光の速さをもってすれば、会いに行こうと思えば直ぐにでも行ける。
だが、それをしないのは、アレックスが良い顔をしないと分かっているから。
教皇補佐としての責任、皆の上に立つ者としての自覚を持ってと、いつもいつも口癖のように言う彼女。
責任感のない男は嫌いなのだと、宣言されているのだから、どんなに会いたいと思っても、俺は我慢するしかない。


「もしかして、アレックス。俺の事を思いながら、一人でするつもりだった、とか?」
「ば、バカッ! し、しないわよ! する訳がないでしょっ!」
「そう? 俺は今夜、一人でするつもりだったけど。アレックスの白く綺麗な肌を想像しながらね……。」


受話器を持ったままコロンとベッドに横たわった俺は、アレックスの身体のラインを思い浮かべながら、伸ばした右手で宙をなぞる。
想像とはいえ、艶めかしく俺の手に跳ね返ってくる彼女の肌の弾力に、ゴクリと無意識に喉が鳴った。


「今、アテネのホテルにいるんだ。聖域からじゃ、私用の電話は掛けられないから。」
「……アイオロス?」
「こうして声を聞きながらだったら、一人でシてる事にはならないんじゃないか? 触れられなくても、互いの気持ちは伝わるだろ?」


返事は返ってこない。
無言の中から感じ取れるのは、大きな困惑、戸惑い、躊躇い。
だが、抑制の効かない俺の手は、既に空中に思い浮かべた彼女の身体から離れて、自身の身体を辿っている。
ゆっくりと、確実に、まるでアレックスが触ってくれているように、服の下の肌を這う指先と手の平。


「声、聞かせてくれ、アレックス。キミの声を聞きながら、最高の場所にイきたい。」
「で、でも……。」
「な、一緒にシよう。俺の声で感じて、この夜を、離れていても一つに繋がっていられるように。」
「恥ずかしい……。」
「一人なんだろ。恥ずかしい事はないさ。それに、ほら。俺がアレックスの直ぐ横に居ると思って……。俺がキミの肌に触れていると思って、ね。」
「や……、アイオ、ロス……。」


電話越し、それだけで跳ね上がる羞恥心。
いつもは勝ち気で、ベッドの上でも積極的なアレックスがみせる、初々しいまでの恥じらい。
その新鮮な反応に、もう待てないとばかりに歓喜の世界へと走り出す自分。
そんな俺の声と息遣いを聞き取って、観念したのか、それとも、釣られて欲情したのか。
躊躇いがちに漏れ出したアレックスの微かな嬌声に、俺の理性は一気に吹き飛んだ。



何処にいようと繋がる、この心と身体



(はっ……、凄いな、アレックス。いつもよりも乱れてる。)
(違っ……、そんな事……、な、い……。)
(キミはエッチだな。いや、ムッツリかな。)
(そ、れは……、アイオロスの方、でしょ! もうっ!)



‐end‐





(エ)ロス兄さん、テレフォンえちを強請るの巻(爆)
ロス兄さんなら、どんなシチュでも、上手いこと楽しみそうだなと思って^^
ロス兄さんならGも、ガッツリなんだけど、爽やかに致しそうw
そして、翌日はツヤツヤな顔をして、執務に現れてくれると思います(苦笑)

2015.01.03



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