ホワイトスノー、ホワイトナイト



「……カミュッ!!」


突然、現れたアレックスの姿に、私は呆然とするしかなかった。
彼女は城戸邸に滞在して、華やかな冬のトウキョウを満喫している筈だったのだ。
その間、私は任務で北の地方へ。
同じ日本でありながら、こうも違うものかと、辺り一面を真っ白に染め変えられた雪の街に留まりながら、今頃は楽しみにしていたトウキョウでのショッピングを満喫しているだろうアレックスを思い、少しだけセンチメンタルになっていたところだった。


「へへ、来ちゃった。」
「アレックス……。」


彼女の名前を呼ぶ私の声には、多分に呆れが籠もっていたように思う。
トウキョウとは大きく気温差のある、この街。
日中でも気温が氷点下より上がらない北の街に、彼女は薄いポンチョ一枚羽織っただけの姿でやってきたのだ。
ウール素材とはいえ、その装いでは、この寒さは防げまい。
アレックスが来てくれて嬉しいと思う反面、呆れの方が先に立ってしまった。


「ふぅ……。」
「なぁに、溜息? カミュは寂しがり屋さんだから、私が飛んできたら絶対に喜ぶと思ったのに。おかしいなぁ。」
「喜んでいるし、嬉しくも思っている。だが、それ以上に……。」


途切れた言葉の合間、手を伸ばして触れたのは、寒さに赤く染まったアレックスの頬。
予想以上にヒヤリとしていて、慣れない寒さの中を、彼女がどれだけの時間、ココで待っていたのかと思うと、こちらの心の方がスッと寒くなってくる。


「こんなに冷えて……。こうして来てくれた嬉しさよりも、アレックスの身体の方が心配だ。」
「だって、カミュに会いたかったから。寒さなんて、どうでも良かったの。」
「どうでも良いなどと言わないで欲しい。貴女が健やかでいなければ、私の心が張り裂ける。」


せめて旅立つ前に、城戸邸のメイドにでも頼んで、温かな防寒着を借りれば良かったものを。
手袋もなく、マフラーもなく、指も手も首筋も、痛々しいまでに真っ赤になっているではないか。


「アレックス、これを。」
「これ、手袋……。でも、カミュの手が冷たくなっちゃう。」
「構わん。この程度の寒さ、寒いとも思わないのだ、私は。」
「あ……。」


差し出した手袋を受け取る事を、躊躇するアレックス。
その手を取って、無理矢理にブカブカの大きな手袋を通す。
触れた瞬間の手の冷たさに、私の心もヒヤリと痛んだ。


「本当に大丈夫? 手、冷たくない?」
「私を誰だと思っているのだ? 本当なら、このようなコートすら必要ないのだが……。流石にそれは、な?」


クククと小さな笑いを零すと、アレックスは少しだけ目を見開いた後、私に釣られるように笑みを浮かべた。
幾ら寒くはないといっても、この街でシベリアでのスタイルを貫けば、奇怪な人だと思わてしまうだろう。
銀世界の中で、道行く人々から白い目を向けられる私の姿を想像すると、自分の事ながら笑いが込み上げてくる。


「さぁ、行こうか。」
「え、何処へ?」
「まずは温かなダウンコートを買いに。それから、この街は雪景色のイルミネーションが有名だそうだから、一緒に見に行こう。あぁ、勿論、その後は……。」


綺麗なイルミネーションに心が弾んだとしても、この氷点下の寒さだ。
すっかり冷え切ってしまった身体を温め合うために、ホテルの部屋へと直行しなければな。
私は兎も角、彼女は身体の芯から凍えているだろうから、深く奥まで、彼女自身すら触れる事の出来ない深い場所までシッカリと温めなければ、風邪を引いてしまう。
少し屈んで、アレックスの耳元でそう囁けば、顔を別の赤さに染めて、口をパクパクとする仕草が可愛らしい。
そんなアレックスが、より一層、愛しく思えた。



降り注ぐ雪が溶ける程に熱く



(ほ、ホテルの前にディナーじゃないの?)
(ホテルにはルームサービスというものもあるのだ。知らないのか?)
(それは、その……。)
(オムライスとビーフシチューが美味しいと聞いた。楽しみだな。)



‐end‐





ムッツリ我が師が降臨しましたw
夜のお楽しみを色々と妄想して、艶っぽい笑みを浮かべる我が師w
蟹や山羊ならニヤリと笑むところを、フッと小さな笑みを零すとか、返ってEROくないですか、我が師w

2014.12.21

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