解いた手を、もう一度



「見ろよ、アレックス。雪が降ってきた。」
「わ、凄い大粒の雪。どうりで寒いと思った。」


真っ黒な空からフワフワと舞い落ちてくる綿の塊みたいな雪を見上げ、まるで幸せなカップルのようにハシャぐ俺達は、だが、見た目通りの恋人同士ではなかった。
恋人として過ごすのは、今日が最後。
だからこそ、こうして最後に楽しい思い出をと、聖夜のお祭りに浮かれる街の中を、他のカップル以上に浮かれて歩き回った。


「レストランもロマンチックな雰囲気だったし、お料理も美味しかったし、街のイルミネーションも綺麗だし、何より、この雪。ホワイトクリスマスになるなんて、本当に素敵。一生、忘れられないクリスマス・イブになりそう。」
「…………。」
「どうしたの、ミロ?」


本当の恋人同士であったなら、この後に待ち受けるのは、しっとりと情熱的に過ごす二人の夜。
だが、俺達はイルミネーションで飾られたこの真っ直ぐな一本道を、最後まで歩き切ったなら、そこで終わりなのだ。
それじゃあサヨナラ、バイバイと言って、終わってしまうのだ。
こんなにも楽しくて、こんなにも暖かで、こんなにも幸せだというのに……。


「なぁ、アレックス。やっぱり止めないか?」
「止めるって、まさか別れる事を?」
「そう。俺とアレックスは、変わらず恋人同士のままでいる。」


イルミネーションの灯りに照らされたアレックスの眉尻が、みるみる八の字型に下がっていくのが見えた。
悲しそうに、それでいて、呆れたように、俺の顔を黙って見つめる。


ギリシャと日本、遠く離れた距離を結ぶ恋愛は、恋の始まりに酔いしれていた俺達の予想を遙かに上回って、困難の連続だった。
その上、俺は聖闘士。
世界各国、時には人類未踏の地までも赴き、任務の内容によっては長期に渡って連絡不能にもなる。
聡いアレックスは、この遠距離恋愛を始めた時から、そうなる事を覚悟していた。
そう……、覚悟をしていたにも係わらず、彼女は堪え抜く事が出来なかったのだ。
だからこそ、こうして円満な別れを、悲しい思い出に染まらない別れを選んだ筈だった。


「ヒドい人。やっとの思いで、踏ん切りをつけたっていうのに。」
「ごめん……。」
「笑顔でミロと、お別れしようと思っていたのに。」
「ごめん。でも、どうしてもアレックスを手離したくない。俺の嘘偽りない心が、そう言ってるから……。」


俯くアレックスの両手を取り、自分の大きな手で包み込んだ。
ヒヤリと冷え切った手は、だけど、ギュッと強く握り締めていると、ジワジワと温かさが内側から滲み出してくる。
この柔らかな体温を求めて、何度、アレックスを抱いたかしれない。
この温もりと触れ合っていたくて、彼女との遠く距離の離れた恋愛を選んだのだ。


「ミロ……。」
「やり直そう。俺はアレックスが好きだ。別れるなんて出来ない。」


右手だけを離して、綿雪の掛かるアレックスの前髪を、そっと払った。
白い頬には、目映いイルミネーションの光が、淡く滲んだ影を作っている。
誰よりも可愛いアレックス、愛しい愛しいアレックス。
他の誰かのものになるなんて考えたくない。
今夜も共に二人で過ごしたい。
君を抱きたい、アレックス。
真っ白なシーツの海に、二つの身体を投げ出して、熱い夜に溺れたいんだ。


「努力する。アレックスに寂しい思いをさせないように、今まで以上に努力するから。」
「…………。」
「離したくない。俺は、君から離れたくない。」
「私だって……、離れたくないよ……。」


降り注ぐ綿雪が、視界の全てを白に染め変えていく中、強くキツく抱き締め合う。
例え、この雪が世界を覆い尽くしても、俺はこの手を離さない。
もう決めたから。
ずっと永遠に、君を抱き締め続けるのだと、この心に。



サヨナラが、永遠の愛に変わる聖夜



(私、ギリシャに移住しよう……、かな?)
(本当か、アレックス?!)
(嬉しい? それとも迷惑?)
(嬉しいに決まってるさ。今より、もっとアレックスと一緒にいられるようになるんだから。)



‐end‐





サヨナラから、もう一度、やり直す恋がテーマです。
往生際が悪いミロたんも良いなと思って。
簡単に諦めてくれない、カッコ悪くても必死に引き止めて欲しい。
そう思わせる可愛さがあるのがミロたんだと、勝手に思ってますw

2014.12.16

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