自信過剰な彼からの贈り物



翌朝。
いつも以上に気合いを入れて、教皇宮へと出勤した私。
ココでの仕事も、後一週間。
まだ何処の宮にお世話になるのか決めてはいないけれど、浮き足立ってヘマをするような真似はしたくない。
普段以上に身を引き締めて、今日のお仕事を開始する。


一日のお仕事は、執務当番の黄金聖闘士様へ、朝のお茶を淹れる事から始まる。
余り休んでいないだろうサガ様には、濃い目のコーヒーを。
シャカ様とカミュ様は、先日、童虎様が持ってきてくださった烏龍茶を。


「……おはよー、アレックス。」
「おはようございます、ミロ様。」
「アレックスと一緒に仕事出来るのも、後一週間かぁ。アレックスが居ないんだったら、俺、執務に来たくないなぁ。」


ミルクと砂糖のたっぷり入ったカフェ・オレをミロ様に手渡しながら、私は苦笑するしかない。
隣のカミュ様も呆れの溜息を一つ吐いてから、ゆっくりと烏龍茶を啜る。


「毎日、執務当番な訳でもないのに、やる気なさ過ぎだぞ、ミロ。」
「だってさぁ。こーんな書類と睨めっこの仕事、俺の性分じゃないし。面倒だし。アレックスが居なきゃ、ココに来る楽しみもないじゃん。」
「性分云々ではないだろう。面倒なのは、皆、同じだ。」


カミュ様の呆れ顔が更に深まり、ミロ様は頬を膨らませる。
それでも、受け取ったカップから甘いカフェ・オレを啜ると、直ぐにニカッと笑ってくれるのがミロ様だ。
ニコリというか、ニヤリというか、口元に笑みを浮かべたまま、彼は指先で摘んだ書類をヒラヒラ振ってみせた。


「ま、良いさ。一週間後には、ココで会えなくなる代わりに、毎日、アレックスの顔を見て過ごせるようになるんだからな。」
「……は?」
「……え?」


あっけらかんと発したミロ様の言葉に、驚いたのは私だけではない。
カミュ様もまた、私と同時に驚きの声を上げた。
一体、いつの間に、私の勤務先が決まってしまったのだろう?


「アレックス。天蠍宮に勤める事に決めたのか?」
「い、いえ。まだ何も決めてはいないのですが……。」
「という事は、またミロの早とちり……。いや、思い込みか。」
「思い込みって何だよ!」
「そうではないのか? まだアレックスが何も決めてないと言っているのだから。」


そこから始まるプチ騒動。
聖域名物の親友問答は、正論で四方を固めるカミュ様と、屁理屈で勝手に逃げ口を作り出すミロ様の対決。


「例え、まだアレックスの意志が固まってなくても、最終的には俺のところに来るんだから、結果は同じ。他のヤツ等が何をどう足掻こうが、無駄なんだって。」
「どうして、そうなる? お前のところに行くかどうかは、分からんだろう。その無駄な自信は、何処からくるのだ?」
「無駄って何だよ、無駄って!」


お二人の声のトーンが上がり、私は慌てて周囲を見回した。
山積みの書類に忙殺されているサガ様は、最初から耳に届いていないのか、顔を上げる素振りもない。
シャカ様に至っては、徐に引き出しから取り出した耳栓で耳を塞ぐと、何事もなかったように執務を続けている。
取り敢えずは、このまま放っておいても大丈夫だろうか。
いや、でも、ココで止められないようでは、これから宮付き女官として、やっていけないのでは?


「お前のトコだけには、アレックスは絶対に行かせないからな、カミュ!」
「それはミロが決める事ではないだろう。」
「フンッ! 後で地団太を踏んでも遅いぞ!」
「あ、あの……、ミロ様。」


恐る恐る口を挟めば、ピタリと止まるお二人の言葉、動き。
そして、同時にコチラを見上げられると、ピクリと身が竦む。
流石に黄金聖闘士様の目力は凄い。


「あの……、お部屋も片付けない、書類も片付けないのでしたら、私、ミロ様のお役には立てそうにないですよ?」
「うっ!」


敢えて釘を刺す一言。
いつも上手い事、楽をしようとするミロ様には、しっかりと釘を刺すのも大事なのだと、研修の一週間で学んだ。
ほら、途端にシュンとなって、まるで飼い主に叱られた大型犬みたい。


それから数時間。
お昼休みになるまで、ミロ様は真面目に書類と向き合っていた。
デスクの上を見れば、普段以上に早いスピードで書類が処理されていると分かる。


「ミロ様。お疲れさまでした。」
「アレックス。さっきはゴメンな。」


お昼休みを迎えて、私は新たに淹れたコーヒーを手に、ミロ様のデスクに向かった。
少し疲れた顔の真ん中、眉をハの字にして見上げてくるのが、何とも可愛らしい人だ。


「でもって、ありがとう。あんな風に尻を叩かれないと、俺、やる気も出せなくてさ。やっぱ、どうしてもアレックスに来て欲しい。俺のために。」
「ミロ様……。」


スッと差し出された手に、反射的に手を伸ばすと、手の平の上にコロリと落とされた何か。
見れば、彼の大好きなコーラ味のキャンディだった。


「な、アレックス。毎日、俺の尻、叩いてよ。」


そして、ニコリ、あの太陽のような笑み。
それは眩しい程で、私は目をパチパチと瞬かせた。
何と言うか……、こういうところが、思わず尽くしたくなる。
それが彼の魅力なのだと、改めて思った。



彼がくれたもの、それは
キャンディひと粒



‐end‐





ミロたんは『我が儘駄々っ子』なイメージですw
ついついアレコレして尽くしたくなっちゃう人ですよねv

2014.08.24

→???


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