――コンコンッ!


「入るぞ。」


ノックと同時に勢い良くドアが開き、アイオロスが顔を出す。
遠慮もせずに中へと入ってきた彼は、私の姿を見止めて、パッと表情を明るくした。


「アレックス、今日はいつも以上に綺麗だな。流石に俺の妹、会場中の男達がアレックスの虜になりそうだ。」
「ロスにぃ。私にお世辞なんて言っても、何も出ないわよ。」


アイオロスの大袈裟な褒め言葉に、私は苦笑するしかない。
だが、そんな私の言葉に、途端に真剣な表情になったのはアイオロスだけではなかった。
シュラも同じように真剣な眼差しになり、「そんな事はない!」と二人同時に発した言葉が、綺麗にハモる。


「まさか全然、自覚がないのか? アレックスはそこらの女の子に比べれば、ずっと美人なんだぞ?」
「そうだぞ、アレックス。俺としては、こんな風に他の男の目に触れる場所には、出来れば連れて来たくはなかったんだ。」


真剣な目で詰め寄る二人に、思わず後退りしてしまう私。
その思い掛けない言葉に、キョトンとアイオロスとシュラの顔を交互に見るばかりだ。


今日の私は、アテナ様が用意してくださった夜の闇のように深く濃い紺色のカクテルドレスを着ていた。
いつもは長いまま垂らしている髪も今日は結い上げているため、肩紐のないドレスでは、首から肩、鎖骨などのデコルテが剥き出しになっている。
だが、上半身の露出が大きい分、スカートはロングで足首まで全て隠れてはいた。
ただ、ピッタリとしたデザインは、身体のラインをハッキリと浮かび上がらせて、これでもかと言うように強調していたが。


「アレックスのこんなセクシーなドレス姿が、他の男の目に晒されるなど、考えたくもないんだがな。」
「相変わらず独占欲が強いな、シュラは。まぁ、気持ちは分からんでもないが。それだけアレックスは綺麗だからな。」


呆然とする私の前で繰り広げられる会話に、益々、呆然とする私。
そして、呆然としたままの私は、直ぐ横の姿見に視線を向けた。
鏡に映る自分の姿。
やや癖毛の金茶の髪、緑の瞳、肌はそれほど白くはなく普通の肌色。
スタイルは悪くはないが、特別良いという事もない……、と思う。


聖域にいる女官や女性官吏は皆、美人ばかりだ。
彼女達に比べたら、私なんて大した事もないと思っていたけれど……。


「この自覚のなさは、シュラのせいだろ? キミが子供の頃からアレックスを独占して閉じ込めていたから、自意識がまるでない子になったんじゃないのか?」
「俺は独占などしていたつもりはない。ただ、変な虫が付かぬよう、アレックスの傍を離れなかっただけだ。」
「いや、それを独占と言うんじゃないのか、シュラ……。」


私は何をどうして良いか分からず、勝手に何やら盛り上がっている二人の顔を、再び交互に眺めた。
それに気付き、アイオロスはニコッと爽やかな笑顔を浮かべ、シュラは目を細めて私をジッと見つめ返す。
再び伸びてきたシュラの腕が私の腰を引き寄せて、その力強さにまた胸が高鳴った。





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